コーヒーの木

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1  うちの部署には、若様と呼ばれる人物がいる。  その名は若林厚徳(わかばやしあつのり)、今年三十になったばかりの童顔タヌキ顔男だが、家柄は至って普通、どこにでもいるサラリーマンの父にパートタイマーの母を持つ一般市民である。  苗字から一字拝借した以外、この男の愛称としては全く似つかわしくないのだが、同僚はもちろん、上司、部下までもが彼をこっそり「若様」と呼ぶ。  理由は単純明快、名前の厚徳そのままに、徳が大変厚いから――では断じてなく、徳をきれいさっぱり持ち合わせておらず、厚かましさだけそれはそれは大層ご立派にお持ちなので。  そう。つまりこの呼び名は皮肉で、悪口なのである。
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