第一話 突然の襲来

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第一話 突然の襲来

 その渓谷はⅤ字というよりはU字に近かった。正確に言うならU字を無理やりこじ開けたように見える。なだらかな山の斜面では短い草が風に踊り、谷底には木々や茂み、咲き誇る花が広がっていた。大地はその先で再び緩やかな曲線を描きながら空へとせりあがっている。  そこでは猪や鹿が長閑(のどか)さを謳歌(おうか)するように闊歩(かっぽ)し、野ねずみが駆けずり回っていた。まるで彼らの独壇場(どくだんじょう)のようだった。  U字を平らにしたようなその渓谷、イェルー渓谷には集落らしい家々の集まりがちらほらとあった。連なっている一つの山からは水が噴き出し、山肌を勢いよく流れ落ちて渓谷の平地を潤しながら南西へとのたくっている。  蛇のようにうねるその川の岸に二つの小さな人影があった。一人は(かたわ)らに置いてある赤子ほどの大きさがある壷にせっせと水を汲んでおり、もう一人は川の浅瀬で水しぶきと遊んでいる。母の手伝いで川に来ていた少年は、泳ぐ魚を捕まえようと川の浅瀬で遊んでいる妹を横目で見ながら壷の口を川に付けていた。
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