喧嘩の多いカップル

1/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

喧嘩の多いカップル

「ねえ、食べた後の皿くらい流しに持って行ってよ。洗い物もしないくせに。何回同じこと言わせるの?」 「後でやろうと思ってたんだよ。いちいちうるせーなあ」 都内の狭いアパートで同棲中の若いカップルが夕食後に、食器の片付けが原因でつまらない言い合いをしている。 俺、神楽(かぐら)と恋人の那津(なつ)は共に26歳で、大学時代からもう6年以上付き合っている。ただ昔から些細(ささい)なことでの喧嘩(けんか)が多く、何度別れの危機に遭遇したかも覚えていない。 すぐに怒り出す那津だが、普段はすごく笑顔が可愛くて気が利くいい子なのだ。俺がだらしないゆえに、細かいところが気になってつい口を出してしまう__そう、悪いのは怠慢な"(おいら)"です(笑)。 そして俺たちは、しばらくしてまた喧嘩をおっ始めた。 「神楽。今日は21時からドラマ見るから。例のミステリー」 「わりい。どうしても急ぎの仕事があって集中したいから、テレビはつけないでほしい。22時すぎには終わるからさ」 「は?今日大事なシーンなんだけど。それなら外で片付けてくればよかったじゃない」 「無茶言うなよ。リモートで会議やるから時間指定なの。ちょうど21時からだ」 「じゃあ今から外行って」 「嫌だ、めんどい。一応仕事だぞ」 「はあ……」 意見の対立の末、折れた那津は仕方なくミュート状態でテレビドラマを見ることにした。俺は彼女が()ねているのを申し訳なく思いながらも、横で大事な会議を必死にこなした。 そもそも部屋が一つなのがいけない。長年付き合っているカップルとはいえ、こういうトラブルの対処として、それぞれの個室を備えたマンションにでも引っ越すべきなのだろう。しかし俺たちの給料では、東京の物件は手が届かない。安アパートで限界なのだ。 翌朝の朝食にて。 昨日の喧嘩で機嫌が悪い那津が、俺を(にら)みながら切り出した。 「ねえ。私、何だか一緒にいるの疲れた。別れよう?」 いきなりの離別宣言に、俺は飲みかけのお茶を吹き出しそうになるのを(こら)え、精一杯反対した。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!