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試験期間に入ると、セレーネは益々勉強に励むようになり、俺も彼に負けじと勉強をし始めた。そうなると自然に二人の時間は取れなくなってきて、寂しいと思いつつも必死に頑張っている彼を応援したいとその気持ちは押しとどめた。
セレーネが皇太子の婚約者候補だという話はいつの間にか学園中に広まっていて、皇太子が誰なのかという憶測やどうやって2人が出会ったのかという噂話はどこに行っても耳にはいるようになった。
ここまで来ると正体を明かした方がいい気もするけれど、正式に婚約が決まるまではもう少しだけ落ち着いた環境で過ごしたいと考えている。
いつも通り図書館へ向かうと珍しく生徒の姿が見当たらなかった。見渡してみると、夕焼けに照らされた窓際の席に見覚えのあるプラチナブロンドが見えて遠目から観察してみた。
眠っているのか、顔を伏せてそよそよと髪が風に揺られている。
誘うように俺の方にセレーネの香りが漂ってきて、それにつられて起こさないようにそっと彼の方に近づいた。
試験対策用のテキストの上に頬を付けてスースーと寝息を立てているセレーネの頬を撫でる。
そうしたらセレーネが微かに身じろいで隠れていた顔がはっきりと見えた。
久しぶりにこんなに近くでセレーネの顔を見た気がする。
「……頑張ってるんだな」
文字が沢山書き込まれたテキストが彼の努力を証明していて、凄いなって思うと同時に心配になった。
頑張りすぎて体を壊さないだろうか。
たまには弱音も吐いて欲しい。
そう思いながら、そっと彼の唇に口付けをした。
「セレーネありがとう」
婚約するために頑張ってくれているセレーネのことを本当に愛おしく思う。
こんなにもセレーネに望まれているんだと気付かされたんだ。
「一緒に頑張ろう」
だから、1人で頑張らせることはさせたくない。俺だってセレーネの隣に立っていたいから。だから、明日セレーネに会ったら、一緒に勉強をしないかって誘ってみよう。
ふわふわのセレーネの髪を撫でて、そこにもキスを落とす。
俺のお姫様は誰よりも頑張り屋で可愛くて素敵な人だから、俺も彼の隣に立っていて恥ずかしくない人間になりたい。
エイデンが言っていた言葉が痛い程身に染みる。
俺はまだセレーネのことを何も分かってない。
だから、これから一緒に歩んで行く中で1つずつ知っていこう。
「……ん……アル……」
セレーネが寝言で俺の名前を呼んだ。
それを聞いてじわりと胸が温かくなる。
「俺はここにいるよ。セレーネ、愛してる」
俺の言葉は広い図書館内に響いて、溶けて消えていった。
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