鶴の婿入り。

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 数多在る世界のひとつ。其処は、四季が巡る島国。日昇(ヒショウ)の國と皆が呼ぶ。一人の君主から成り、其の一族、家臣団を主として世が回る世界。島にある多くの地を区分けし、経済を回し、秩序を管理する義務と権利を君主より賜った家々が多く存在する。そんな世に存在する、一国でのお話。  多くの職種が在る中、君主の一族に仕える家は、武家(ぶけ)と称された。此処では、主に国の経済維持、治安維持や防衛に携わる職に就く者等を指すが、役割は臨機応変に様々。しかし、其の家々も位がある。当然皆が皆都に置かれ、豊かに在る訳ではない。多くが国の地方にて、地味なお役目を頂く。其れでもまだ善いもので、中には背負う地位ばかりで薄給の家も。そんな中で、各々が先ず何より目指すは都。更には、主君の御側近くへお仕えをと出世を志すのだ。果ては重要な家臣団と認められ、領地管理も。そんな夢を抱いて。  そんな武家の家は、婚姻相手も拘る傾向があった。此の世では、元服さえ過ぎれば異性同性を問わず許される重要な権利。其れは、恋情以外に、家の反映や財産、忖度により結ばれる契約的意味合いをも孕む重要なもの。  其処へ、ある家が圧倒的な人気を誇って居た。其れは、都の端にて代々呉服屋を営む商家で、家柄的にはそう大層な位置には無い。しかし、其の呉服屋は商家で一番の富を持つ。当然、君主の一族とも深く関わりがあるのだ。其れと言うのも、此の一族は先祖代々、不思議な運を受け継いで居ると云われる。何でも、此の家より嫁、婿を貰えたらば其の家には福がもたらされると。過去の事実、傾き掛けたある商家が、借金をして迄結納金を用立て、婿を乞うた処、突然商売が回り始めたと。他も、両親の早逝により落ちぶれた名家の息子が、其の家の娘に見初められ、御家再興を成し得た等々。嘘か真か、人の口から口へ伝わる伝承に、呉服屋の人脈や富も知らず知らずの内に大きくなりて。当然ながら、此の家から子を頂くは容易く無い。申し出るには、先ずは伝。そして何より、其の家の子を納得させねば貰えない。家柄や富は然程重視されず、籤引きと言うた方が適当か。其れ程に狭き門なのだ。  そんな、引けば当たりと云われる一族とは。
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