山下京子、生物教員28才只今授業中。

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「あの、あの前島先生、申し訳ありませんでした。わ、私が至らぬせいで。ご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」  私は、職員室で前島先生に平謝(ひらあやま)りに謝った。 「こちらこそすんません。あいつら、山下先生に甘えとるんですわ。けじめを付けるように、よう言うときます」 「けじめができていないのは、私です。授業に集中できないのは、私の教え方が悪いせいだと思います。それを押さえ込むことに何か、罪悪感を覚えて……」 「えーと、山下先生は、大学を出て教職5年目やったかな。クラス全員が集中する授業なんぞ、できるわけないですよ。先生は、自分が面白おかしく楽しいと思う授業をしたらええんですよ。聞く聞かないは、生徒の自由。先生は、やりたい授業をする。漫画を読んどる生徒がおったら、注意するもよし、ほっとくもよし。ただ、その生徒が、他の生徒に迷惑になるようやったら注意しますけど、静かにこっそり読んどるのなら、よしとしますよ」 「そ、そんな……。授業は、大事です。授業ができない私は……。教師失格です……」  前島先生は、こんな私を許してくれている。申し訳なさで泣けてくる。 「でも先生は、やることはやった。漫画を取り上げたじゃないですか。吉田は、何を読んどったんですか?」  そう言って、前島先生は、私の机上の3冊の漫画本を手に取った。 「お! 『あしたのジョー』かよ。懐かしいな。あいつえらいクラッシックな漫画を読んどったんやな。先生も、読んでみたらどうですか?」 「はあ……」 「まあ、お茶でも飲んで、リラックスしましょう。おやつに柿の種もありますよ」  前島先生は、机の上にティッシュペーパーを敷いて、柿の種をぱらぱらと乗せてくれた。私も、気分を変えようとステンレスボトルのお茶を口にした。  『あしたのジョー』って……。題名は聞いたことあったけど、ストーリーは知らない。  私は、柿の種をポリポリとかじりながら、第1巻を取りページを開いた。
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