序章 深宮寺一家壊滅 1 太陽系惑星聯合のあゆみ

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

序章 深宮寺一家壊滅 1 太陽系惑星聯合のあゆみ

 ── 新銀河歴千三百八十二年 ──  太陽系は平和を謳歌していた。  しかし、この平和は一朝一夕で手に入ったものではない。  月や火星と言った近隣宙域を主とした宇宙開発の時代が二百年ほど過ぎた頃、飛躍的な航星技術が発見され人類は宇宙へと一気に飛躍して行くようになる。  人類が本格的に宇宙空間へと飛び出してから三百二十六年、地球は繁栄の一途をたどっていた。  開発していった惑星も紆余曲折の中、いまでは独立した主権惑星としてそれぞれが政府を持つに至り、地球を中心とした〝太陽系惑星聯合〟が創設された。  水星と金星はあまりに太陽に近過ぎるため、いまでも無人のままである。 (因みに地球の直轄統治権があるのは月と火星のみで、後は独立した国家となった。特に植民星時代の木星との間には〝第一次、第二次ジュピター独立戦争〟と言う二度に渡る大戦争が勃発したりもした)  そんなことも、すでに八十年以上前のむかし話しとなっている。  だが当時の人類は、異星人の存在をまだ知らなかった。  その当時太陽系惑星聯合の直轄宙領は水星から海王星までの八つの惑星と、冥王星や太陽から最も遠いエリスまでを含む準惑星群までと自主規定されていた。  地球以外は、時間をかけ惑星の環境改善を施し地球人が入植し、苦難の末に人間の棲める星として発展させていった星々である。  それ以外にも恒星間移動技術の発達により、太陽系以外の星にも進出しそこを植民星として太陽系惑星聯合は拡大に拡大を続けた。  しかしそこで暮らすのは、すべてが地球人であった。  それが今から丁度百年前に、突然銀河連邦と名乗る異星人からの接触があった。  地球人は知る由もなかったが、彼らが言うには宇宙は以前から大きな枠組みが築き上げられており、勝手な領域拡大は許されないと言うことであった。  彼らの要求は太陽系惑星聯合も銀河連邦に加盟し、その秩序の中で存在することであった。  いわゆる〝開星〟である。  八十八の宙域からなる星々の惑星共同体は、超巨大艦隊を太陽系へ派遣し武力を背景として交渉をして来た。  惑星聯合はその規模の大きさと、未知の技術で造られている艦船を見て大騒ぎとなった。  聯合の盟主である地球では連邦への加盟もやむなしという意見と、そんなものは無視していままで通りの独自路線を堅持するべきと主張する者とに分かれ、大論争となった。  惑星聯合の各政府は、概ね加盟拒絶・異星人攘夷討伐を主張する星が多かった。  特に土星と天王星は攘夷の急先鋒で、即時開戦を叫ぶ者もいた。  土星の過激派に至っては、政府や地球の意に従わず勝手に連邦の艦船に攻撃を仕掛けるという大事件まで引き起こした。  その結果連邦軍との間に戦闘が始まり、あっという間に衛星の一つ〝タイタン〟を占領されてしまった。  地球に次ぐ大艦隊を持つ天王星では、直近宙域をこれ見よがしに航行する連邦艦隊に政府自体が攻撃命令を出し、即時戦闘となった。  自らの力に奢る、天王星終身総統の独断行動であった。  しかしこれも圧倒的な敵艦隊の力により、二日後には天王星本星にまで攻め込まれ、一時首都付近に至る地域が占領された。  これにより終身総統は地位を追われ、天王星も他の惑星同様に市民による直接選挙が実施され四年任期の大統領制が敷かれた。  ここまで力の差を見せられた惑星聯合は、とうとう連邦加入の条約を締結することを決定した。  これが地球という惑星の、銀河世界へのデビューとなった。  さまざまな規制がかけられるというマイナス面も多々あったが、いままでになかった超技術を得ることにより、地球人の種としての技術レベルが一気に数十段階ほど高まった。  こうして惑星聯合は少しづつ力を蓄え、新型艦船を建造し超航星技術を会得し、短期間の間に他の星々へと追いついて行った。  そうなると他の星との間に、摩擦が起こるのは当然である。  中でも太陽系と近い宙域にあるプロキシマケンタリウス率いるアルファ星海連盟は、強引な条件を突きつけ強権的な交渉をして来た。  惑星聯合が影響力を持つ〝フンボルテス小惑星帯〟及び〝グネックス二重惑星〟の統治権をプロキシマケンタリウスが主張して来たのである。  この宙域を彼らに奪われれば、直轄領域である冥王星をはじめとする準惑星群の安全保障に係るため、連合としては譲るわけには行かない所であった。  それを承知で彼らは、太陽系惑星聯合を未開な弱小星団と侮り力で脅してきたのだ。  対して惑星聯合側は太陽から最も離れた地点を回る〝ファー・ファー・アウト〟を引き合いに出し、プロキシマケンタリウスの統治権を逆に主張した。  本気でそれを主張した訳ではないが、無理な要求に対する惑星聯合の強い意思表示のためだ。  この対応に不快感を示したプロキシマケンタリウスは、グネックス二重惑星への軍事侵攻を匂わせる。  それを受け惑星聯合は自らの生存権のすべてを賭け、プロキシマケンタリウスへ宣戦を布告したのだった。  こうして第一次ケンタリウス戦役が始まった。  誰が見ても戦力の差は歴然としており、一方的な結果に終わると思われた。  しかしこの戦いに勝利したのは、予想だにしない太陽系惑星聯合であった。  木星宙域大会戦の奇蹟的完全勝利を好材料に停戦協議を進め、新興大星団デオールの仲介もあり見事に戦勝星として終戦を迎えた。  その結果惑星聯合はアルファ星域大回廊の人工要塞惑星群ゲヲンの支配権と、ケンタリウス星域までの宏大な宇宙空域の自由航行権、そしてそれまでケンタリウスが治めていたさまざまな植民星に対する主権並びに保護権を得た。  しかし銀河を牛耳る強大な五つの惑星連合体からの干渉により、太陽系聯合は自由航行権とゲヲンの支配権以外の植民星の主権・保護権をすべて返還せざるを得なくなった。  この屈辱の事件を地球人は〝五大星干渉〟として記憶し、いつの日にか雪辱を晴らす機会を窺った。  着々と実力を蓄えた太陽系惑星連合はそれから二十四年後、シリウス第五帝星及びガイラー神聖星団と三星連盟を締結した。  この連盟には次々と加盟して来る星々があり、銀河連邦の三分の一ほどの大勢力となった。  その力を背景として、三星同盟側は五大星を中心とする銀河連邦からの離脱を宣言した。  百年あまり前の第一次星系間大戦に於いて多くの領域と権益、そして誇りを失っていたシリウスは、失地回復を期すために強大な宇宙艦隊を組織し電撃的な侵攻作戦を開始した。  ガイラーも往時の栄光を取り戻すべく独裁政権の下、大規模な戦争を各宙域で繰り広げた。  わが太陽系惑星連合も、五大星干渉にて失った権益を奪還するために、聯合宇宙艦隊を主力とする強力な部隊をケンタリウスに向けた。  第二次ケンタリウス戦役である。  ほとんどの星がどちらかの陣営に与し、戦線は限りなく膨張していった。  その結果十余年に渡る、第二次星系間大戦が勃発したのだった。  銀河を二分した大戦争は、とうとう勝敗のつかぬまま停戦となった。  莫大な資源と人員を消耗しただけの、不毛な戦いであった。  そうして新たに組織されたのが〝新銀河連邦〟である。  太陽系惑星聯合代表の地球は銀河安全保障会議の〝常任理事星〟の一つとなった。  それ以来小競り合いは絶えないが、大きな星団間戦争は起きていない。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!