徒し世の忍

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金作が10歳の頃—— 「助けて——!」 いつものように命を狙われた金作が泣き叫ぶと、 どこからか人影が姿を現し、その影が金作の前に立ちはだかったかと思うと 金作を狙った相手は次の瞬間、息絶えていた。 「怪我はないか?」 「っ、曽良……!!」 自分を助けてくれたのが同郷の幼馴染である曽良だと分かると、 金作は曽良の背中に縋り付いて泣き出した。 「うわあああん!怖かったよ……!」 「間に合って良かった。 怪我もしていないようだし」 「曽良っ、助けてくれてありが——ひっく」 「泣くなよ。金作が命を狙われるのは今に始まったことじゃないんだから」 「でも……っ、曽良が来てくれなかったら 今日こそ死んでたかも……」 「ああ、もう。 金作はいつまで経っても泣き虫だな——ほら」 曽良は懐に忍ばせていた手拭いを取り出すと、 号泣する金作の涙を拭ってやった。 「金作は里長の血を引く男子なんだから、 もう少し気を強く持たなきゃ駄目だ」 涙を拭き終えた曽良が呆れたように見下ろすと、 芭蕉はもじもじと俯きながら答えた。 「でも……僕は根っからの気弱だから 誰かと戦うなんてもってのほかだし……。 父上から忍としての指導をつけてもらってはいるけど、僕は忍には向かないと思う。 それに——」 金作は、曽良にとどめを刺されて動かなくなった敵の死体をちらりと見た。 「曽良だって思うよね? いつも命を狙われている僕なんかが この先長生きできるはずないって……。 きっと僕は、里長を継げるような歳になるまでは生きられないよ」 すると曽良は唇の端を上げ、そっと金作の頭に手を置いた。 「そんなことないさ。 金作には俺が付いてるんだから」
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