第一章・ーツンデレ刑事と女王様ー

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 それでしばらく周囲に沈黙が落ちるが、レイカだけがもじもじちらちらしながら、オフィーリアに何やら話しかけたそうにしているのが、見て取れた。  それでも何らリアクションを取らなかったオフィーリアだったが、やがて思い付いたように腕時計を見ると、再度慌て出す。 「あかん! ここでおったらほんまに遅刻する! ()ぇか! ヴァン! 自分はシェイカー捕まえてボコしとけよ! で、そっちの嬢ちゃんは帰ってきたらちゃんと話聞いたるさかい。今は待っといて!」  とか言い残しながら、返事も聞かずにオフィスを後にする。  残された二人は顔を見合せると、すぐに視線を逸らしてからため息を吐いたのだった。  ーー一方で、イグレシオン署を出たオフィーリアは街の中心地にある、噴水広場へと急いでいた。  待ち合わせはそこにしていたが、律儀なアニーの事だから、時間より早めにきているだろうと、ようやくの事で辿り着く。  辺りを見渡し、噴水の前で目的の相手を見付けて走り寄った。 「済まんかった! ホプキンス、遅れてもうて!」 「あ、お兄ちゃん。大丈夫だよ。今きたばっかりだから」  今日のアニーは少しばかり目立ってきたお腹の膨らみを隠すためなのか、シルク生地でライトグリーンのワンピースを着用している。  身体を冷やさないためにライトブルーのカーディガンを羽織り、フラットな靴を履いていた。 「ほな、行こか」 「うん。ごめんなさい。今日、本当に用事とかなかった? こんな事頼めるの、お兄ちゃんしか思い付かなくて……」  歩こうと促すのには頷いたアニーだったが、栗色の瞳を伏せ、同じく栗色の髪を風に揺らしながら、遠慮勝ちに今更な事を聞いてくる。  昔から遠慮する質だったがと、下手に「大丈夫だ」と返しても無駄なのを知っているオフィーリアが、笑みを浮かべる。
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