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「分かった? 受話器のマークを見つけたらママに教えてね?」
金曜日の夕方ということもあって、郊外にある大型ショッピングモールは賑わっていた。学生にカップルに家族連れ。
そんな中、リーフレットを広げてフロアガイドをいつになく真剣に見ている私達親子。いや、私のみが凝視していると言った方が正しいかもしれない。
「じゅわきってなに?」
「電話の持つところのことよ」
「すまほのもつところって、どんなまーく?
しかく?」
五歳の娘──凜は公衆電話はおろか、固定電話すらあまり見る機会がない。電話といえばスマートフォンを浮かべるのも当然だった。
「ジィジとバァバのおうちに、スマホじゃない電話が置いてあるの覚えてる?」
「んー、わかんない」
ベンチに座りながら足をブラブラさせている。詳しく教えてあげたいけれど、今の私にそんな余裕はない。
「そうだよね、ごめんね。このマークを一緒に探してくれたら嬉しいな。ママ、パパに連絡出来なくてとっても困ってるの」
「わかった!」
今日は和之の仕事が終わってから、このショッピングモール内で合流して夕飯を食べることになっていた。
忘れたことに気が付いたのは、駐車場に着いてから。鞄の中身を全て助手席に出してみたけれどやっぱりなくて、今は公衆電話を探しているところ。
こんなことになるなら、具体的な待ち合わせ場所を決めておくべきだったと後悔中。
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