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 被害者、名取沙綾から事情を聞けた事から、凪達の同世代同僚のブルーフェニックス隊員、屋形ちまが動き出す。就労移行支援施設職員、内田の声だけがよく拾える特殊機械を耳に埋め込み、施設に潜入することになる。  入所して数日経った。朝8時、施設の玄関前。  「おはようございます」  「おはようございます」  内田にちまは答えた。  「寒いですね」  「そうですね」  「うちなんかもう、☓☓で◆□▣なのに、もう洗濯物が○○◎▲で」  「それはやっぱり◎○▣▲☓☓☓で、☓☓だと思うから、更に○◎☓◆◎☓☓!」  内田が一瞬凍りつく。  「で、では、私はこれで」  詰め所に逃げて行った。  仕事開始のチャイムが鳴る。内田はちまを避けるように働いていたが、ちまが彼女をマークする。  「内田さん!私、☓☓○◎で、▲な気持ちがあって、更に☓☓☓☓○◎●▲△■」  「は、はい……」  内田がビクビクして答える。  「だからとっても●●△なんです!」  「は、はい、わかりました」  内田は、慌てて他の部署に回る様子。  「内田さん、ちょっと待って。◎◎なことは、☓☓☓で、更に☓☓なことは、どうしたらいいんですか?」  内田は泣きそうになって言った。  「ごめんなさい、よく聞こえないので大きな声でもう一度お願いいます」  「わかりました!○☓☓☓☓■▲◇○◎」  普段無口と言われるが、これは仕事中。ちまは内田に向かって、身振り手振りで、盛大に喋り倒す。「で、●◎☒なんですよ」  「や、屋形さん、私語は厳禁ですよ」  「何言ってんですか、仕事の話ですよ。まずエプロンとかいうやつは、●◎☒●◎☒▲◇◇☓☓☓で、更に●◎☒●◎☒☓☓☓!」  「ひーん!」  ついに内田は泣いて詰め所に逃げて行った。  翌日もその翌日も、内田はちまにマークされ、とうとう退職に追い込まれた。  『あなたの話は聞こえないので、他を当たって下さい』  内田はこの一言が言えなかった。なのに、自分が聞いてもらう時は気持ちよくて、沙綾を退所に追い込んだ。もともとコミュニケーション能力に問題のある人だったのだ。福祉の仕事自体向いていない。
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