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【α嫌いのΩ】警戒中の、クリスマス
「…で、結局高級店連れて行かれたの」
ビルの屋上のサンルームで、京都と二人で京都の夫が作った弁当をつまみながら、如月はため息がちに昨夜の様子を話していた。今日はよく晴れて、冬の青空が綺麗に広がっている。少し風があるようなので、ガラスの向こうは寒いのだろうが、サンルームの中は太陽の暖かさと、人工的な暖かさとでちょうど良い室温になっていた。
「個室なら行かない、って言ったら、カウンターにした、って言うし、確かに見せてもらったHPにはカウンターのみ、って書いてあったからそれならいいかな、って。少し距離があるから、タクシーで行く、って言うし。んで、行ってみたら」
「あ、私のだし巻き!」
「…ちょうだい。こっちのチキンあげる」
「好きよね、だし巻きにマヨトッピング」
「これだけで、ごはん、おかわりできる」
如月が頷く。
「貸し切りだよ?あんな高級店、移動時間の30分であっさり貸し切っちゃうって、ほんとに何者なんだろ」
「確かに、得体が知れないけど。でも、ゆっくり食べられたんでしょう?流石に、男性二人で高級店、って何かと要らない詮索されがちじゃない。特にキサ、首元にプロテクターしてないから、周りからはΩだって解らないだろうし」
「…そう言うことだったのかな」
「多少はあるんじゃないの?…で?御堂さんの本気さが伝わって、お付き合いすることにしたの」
如月が目を丸くして京都を見つめた。
「何言ってんの。ないだろ」
「は?電話とか聞いてないの?」
「プライベートでかけることないし。しつこく聞かれたけど、断った」
「…そっか」
「ごちそうさま!」
如月は満足げに箸をしまい、手を合わせた。
(まあ、…そうなっちゃうか)
弁当箱をしまう如月を見ながら、京都は心中で溜息をついた。
「笹原」
「御堂先生?」
如月の鍋騒動から2週間。
京都が仕事を終え、ビルを出ようとした所だった。
御堂に呼び止められ、京都が振り返った。
「珍しいですね。あ、キサならまだ上ですけど」
御堂は苦笑した。
「…何ですか?」
怪訝そうに京都が御堂を見上げると、
「これ、サイガの返却バッテリーだけど、フロントに渡しとけばいいの」
「わざわざ…というか、キサのことですよね」
御堂は更に苦く笑った。
「…聞きましょうか」
「いい?さすがの俺も、2週間振られっぱなしだと、心が折れそうで。あいつととことん仲が良さそうなのって、笹原くらいしか思いつかなくて」
「当たってますよ。仲がいいというか、腐れ縁というか、ですけどね」
京都が目を丸くした。この、天下無敵そうなオレ様男が、見たことがないような真っ暗なオーラを放出している。京都は少し思案すると、
「…ちょっといいですか」
「ん?」
京都が何やら電話をかけ始めると、
「先にフロントに置いてくるよ」
御堂はエレベーターのボタンを押した。
「…うん、そう。先生。…うん、じゃね」
エレベーターのドアが開く前に、京都が御堂に駆け寄って、ニッと笑った。
「今日、うちで食事しません?あとで、キサも来ますし」
「…え?」
眼を丸くした御堂に、京都が畳み掛ける。
「ハル…夫も居ますけど。夫なら、うまく取りなしてくれると思いますよ」
「あいつ、俺がいて嫌がらない?」
「御堂先生、真面目に悩んでるみたいだから」
御堂は僅かに頷いた。いつもとは違い、やや重いため息を繰り返している。
「ん。ここんとこで一番悩んでんな…」
ぷ、と京都が笑った。
「…笹原んとこ、車置ける?乗ってけよ」
「あ、いいです。私、夫以外の男性が運転する車には、一人で乗らないことにしてるの」
「…そうか、ごめん」
御堂は素直に引き下がった。
「いいえ」
京都は屈託なく笑った。
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