レンタルエース

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 信号が赤になり立ち止まる。  規則正しいリズムで走っていた時は、それほど気にならなかったのに。  急にTシャツが肌に纏わりついて感じられ、あまりの気持ち悪さに俺は顔を歪めた。浅い呼吸を繰り返しながら、パーカーなんて着てきたら地獄だったな、と思う。  もうじき梅雨を迎える22時過ぎの外は、もうすでに雨の匂いがいたるところに充満している。この時期になると、朝晩の寒暖差が大きくなり今の時間帯は少し肌寒い。それでも家を出るときに上着を着てこなかったのは、何度も経験していらないと知っているからだ。  右側からきた車がゆっくりと速度を緩めて完全に止まる。ヘッドライトに照らされた俺は、キャップを深く被り直す。  無機質で愛らしい音声が青に変わったことを告げると、再び走り出した。    より細く、より街灯のない道を選ぼう。  できるだけ遠く、光のない場所へ行きたいから。
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