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北海遠征
「それでは、北海に向けて出発です!」
数日後、イリス一行は北への旅を開始した。新緑の季節、雪は解け氷の大地に芽吹きの嵐がやってきていた。
黒馬と白馬と茶色の馬が草原を駆け行く。緑の波の上を跳ねながら、彼らは北の海を目指す。
灌木が疎らに生えた草原を駆け抜けていると、アストロの目に止まったのは小さな赤い実。
「ちょっと待ってくれ」
馬を止め、灌木の側へ歩み寄るアストロ。
「どうかしましたか? お兄様」
「これ、食える……のか?」
「さぁ……。食べたことはないですね」
そうか、と言ってアストロは赤い実をひとつもぎ取って口に運んだ。
ああ、ああ。
なんて酸っぱさだ。
舌が痙攣するほどの酸味が口全体に広がってしまった。
被害が広がる前に大量に出てきた唾液と共に胃へ流し込んだ。案の定、胃も驚いてきゅーっと縮み上がった。
「これは……そのまま食うのはやめておいたほうがいいな」
「そうなんですか?」
そう言ってイリスは赤い実を手に取って口に入れた。
どうして。
案の定すごい顔をしている。泣いているような怒っているような、形容し難い顔だ。
「この実は赤黒いものが食べごろなのですよ、マイ・ロード」
クラリッサは微笑みながら赤黒い実を頬張った。酸味が和らぎ、葡萄のように甘くなっているのだ。
「これはブルートバー(血の実)といいます。新鮮な血のように赤く、それが古くなった血のように黒くなったら食べごろなのです」
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