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19・私のすべてを見て欲しい-2※
洞木君が冷蔵庫から冷えた炭酸水を持って来てくれた。シャワールームで火照った身体には嬉しい。シュッと爽やかな音を立ててキャップを回せば、瓶の中でパチパチと仄かに炭酸の爆ぜる音がする。
ベッドに腰掛けて炭酸水を口にした瞬間、
「俺にもひと口だけ下さい」
洞木君の唇が覆い被さるようにして私の口を塞ぎ、液体を奪っていった。
「……瓶から飲めばいいのに」
「カヲルさんの味にしたい」
まるでシャワールームでの欲望が再燃するような炭酸の刺激。私はもうひと口含むと、洞木君をベッドに押し倒した。
時折洞木君がしてくれる行為と同じように、そっと唇を寄せて口移しに流し込む。すると液体を飲み下した洞木君が、反撃と言わんばかりに舌を差し込んできた。
唇を食まれ口の奥まで舌で掻き回されたら息も出来ない。それでなくても敏感な私はキスが不得手なのに、これではいとも簡単にされるがままになってしまう。
「だめ、だめ。私がやります」
今夜は私のターンなのだ。さっき教会を見上げた時、何故だかそんな風に思った。私がどれだけあなたを欲していたか分かりますか? あなたが旅立ってからというもの、私は何をしていてもあなたの事を考えてしまう。
「どうしたんですかカヲルさん。今日めちゃくちゃ積極的」
「黙ってて下さい」
再び洞木君をシーツに押し付けると、彼の腰の上に跨った。腰に巻いていたバスタオルをゆっくりと外せば、恥ずかしながら欲望の高まった証が露わになる。
「……カヲルさん」
「動いちゃだめですよ?」
とは言うものの、ここへ来て緊張が走る。自分から腰を落とすなんて私に出来るだろうか。動いちゃだめなんて啖呵を切ってはみたけれど、やっぱり怖い。
そんな私の胸中を見透かしたかのように、洞木君は優しく私を見上げた。
「俺の胸にしっかり手を付いて。ゆっくり息を吐いて、少しずつ」
シャワールームで緩められた私の後孔に、洞木君の熱い兆しがあてがわれた。
「俺、このまま動きませんから。カヲルさんの好きなように」
びくともしない彼の逞しい下半身に支えられて、私は言われた通りに息を吐きながら少しずつ体重を掛けていく。準備をしたとはいえ、三ヶ月振りのそれは流石にきつい。
ん、くぅ……と思わず息が漏れて、私は唇を噛んだ。
「カヲルさん、唇噛んじゃだめ。声出していいから。いっぱい声出して下さい」
「で、も。私がしたい、のに」
「嬉しい。凄い嬉しいです、俺。だからいっぱい声聞かせて」
その言葉に、私は理性を手放した。身体のあちこちを触れられて、どこをどう感じたらいいのかすら分からないまま勝手に腰が動いてしまう。次第に覚えのある圧迫感が体内を侵食してきた。
「ああ、入ってくる……」
「ヤバい、どんどん飲み込まれてく」
私の身体はこれほどまでに洞木君を欲していたのか。自分でも驚く程に彼の一部を取り込み、快感を得ようとしている。浅ましいと嗤ったのは誰だったか? そんな事など私の頭からはとうに消え去っていた。
「洞木君が、欲しかった」
「カヲルさん」
洞木君に優しく頭を引き寄せられ、私はその胸の中に収まる。
「奥まで入れて欲しかった」
「カヲルさん」
洞木君は、私を抱きしめたまま体勢を反転させた。私はシーツの上に仰向けになり、洞木君を受け止める格好になる。
「奥まで感じて下さい、俺を」
やっぱりあなたに身を任せると、とても安心する。私は洞木君の大きな背中に腕を回し、奥まで揺すぶられながら幸せの波に溺れた。
空調の効いたベッドルームの時計は朝の五時を示していた。傍らの洞木君は全裸のままうつ伏せになり、気持ち良さそうに寝ている。かなり大きなベッドなのに、足が端まで届きそうで笑ってしまった。
営業という不規則な仕事ながら、洞木君の背中は筋肉が引き締まっていて羨ましい。私は研究に没頭してきたせいか、どうも姿勢の悪さが気になる。意識はしているのだけれど、気が付けば猫背になりがちだ。そんな事を思い浮かべながら洞木君の肌に指を滑らせた。あなたに触れていると、胸の中が満たされていく。
ふふ、洞木君のお尻は小さいけれど重量感がある。自転車で鍛えられたのだろうか。毎日お疲れ様。
持ち主が寝ているのを良いことに、指でつついてみたりそっと撫でてみたりする。一瞬ぴくりとしたけれど、再び動かなくなった。
そっと頬を寄せてみる。硬い枕のようで正直寝心地は悪い。けれど、持ち主の呼吸に合わせて小さく上下するのが堪らなく愛おしくて、私はそのまま目を瞑った。
「おーい、カヲルさーん。なんで俺の尻枕で寝てるんですか? なにこれどういう状況?」
持ち主が何か言っている。私はあと五分だけ、と心の中で答えながら、寝た振りを続けた。
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