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2 生徒会長と『ヒミツのお役目』
「ちょ……ちょ、っと待ってください! あ――『開かずの間』の扉が異世界に通じてる⁉」
「ええ。」
愛先輩がうなずく。
ま、ま、待って。むりむりむり。どうなってるの⁉
しかも、王族? 貴族? の相談にうちの生徒会長が乗ってきた?
いや、そんな、ファンタジー小説みたいなこと、あるわけないよね? 夢か何かだよね⁉
「……っ。」
しかし。何度見ても、金髪にドレスのメリルローズ姫は目の前にいる。
それに、さっきつねった頬には微妙に痛みが残っている。
「じゃ、じゃあ、彼女は本当に、異世界の王女様……なんですか?」
「そうよ。」
きっぱりと断言した愛先輩がメリルローズ姫を見やる。
彼女はそれに同調するように、即座に首を縦に振った。
うそ、じゃあ全部ほんとのことなの? じゃあ愛先輩も、その『ヒミツのお役目』を一年間、ずっと果たしてきたってこと?
「愛先輩、このこと、全部知ってたんですか……?」
「もちろん。だって、わたしは前生徒会長だもの。」
「じゃあ、なんでわたしなんかを会長に推薦したんですか⁉ こんなお役目があるって、わかってて……!」
わたしなんかにそんな大それた役目、務まるはずないよ。だって、生徒会長の役職でさえ、すでに荷が重いって思ってるのに。
それなのに、異世界のエライ人たちの相談人、なんて……!
「そんなの、神代さんこそがふさわしいって思ったからに決まってるでしょ?」
しかし、愛先輩はあっけらかんとそう言った。
そして、生徒会長の腕章が、目の前に差し出される。
金モールでふちどりされた腕章が、シャンデリアの灯りに反射してキラキラとまぶしい。
驚いて目を見張ると、彼女はそれをわたしの腕に巻き付ける。
わたしはされるがまま、その様子をじっと見ることしかできない。
「神代さんは、生徒会長の仕事も、このヒミツのお役目も、誰よりも立派に果たせる。わたしはそう思った。だから、推薦したのよ。」
「い、いや、わたし、そんな……。」
「自分に自信を持って。わたし、人を見る目、けっこうあるんだから。」
ね? と言われて、わたしは黙り込んだ。
頼みごとを断れなくて、流されやすいだけのわたしが、立派な生徒会長に……?
ダメだ、信じられない。どうして愛先輩はそんなふうに思ったんだろう。
「さて、いろんな説明をしなくちゃいけないんだけど……まずは、姫、神代さんもソファに座って。」
「ありがとうございます、アイ様。」
「は、はい……。」
ソファに、メリルローズ姫と向かい合うかたちで座る。そして愛先輩は、わたしのうしろに立った。
メリルローズ姫がふわりとソファにこしかける。ひとつひとつの仕草が本当に優雅で、わたしは思わず見とれてしまった。
……まさか本当に、彼女は王女様なんだろうか。
緊張しすぎて、お腹が痛くなってくる。腕章を巻いた右腕が、ずしんと重く感じられた。
「メリルローズ姫。神代さんはたった今、『神の使者』になったばっかりの新米よ。よかったら、そっちでの『使者』とはどういうものなのか、教えてあげてくれないかな?」
「もちろんですわ!」
「えっ。」
神の使者って、何? という疑問が浮かぶより先に、説明をお姫様にさせるの? とぎょっとしてしまう。ふ、不敬罪でつかまったりしない?
だが、メリルローズ姫はまったく気にしていないようで、意気揚々と語り出した。
「『神の使者』というのは、公平な視点と膨大な叡智をもってして、わたくしたちを導いてくれる助言を下さる方のことですわ。」
「公平な視線……膨大な、叡智……。」
「なればこそわたくしたちは、セートカイチョー様のことを、神からの助言を伝える者、として、『神の使者』とお呼びしているのです。」
呆然。まさかの、神の助言を伝える者あつかい。
「代々の『神の使者』様がたは、たくさん素晴らしい助言をしてくださったと伝え聞いておりますわ。時には、国を災害から救ったり、暴君を改心させたり、国が裁きにくいような、大きな権力を持った悪人に裁きを与えたこともあったとか。」
ひええ……。
熱っぽく語るメリルローズ姫とは対照的に、わたしはどんどん血の気が引いていく。
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