因縁の交錯

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──────.... 「よし、これで全て見終えたな。...コリンズ、セントラルに持ち帰る情報で留意すべき点があれば教えてくれ」 昔の記憶を辿りながらもショーンはそれだけ言うと、大きく体を伸ばして腰掛けていた椅子の背もたれに体を預けて凭れ掛かる。 普段他人には見せることのないだらりとした雰囲気を纏ったまま、視線だけをノイに向けた。 それに対してノイは見慣れた光景だと言わんばかりに小さく笑みを浮かべて、隅に寄せられていた報告書の一点をおもむろに指差す。 「...クリスタルタイドの件で死亡者として挙げられているルーファス・クレスト...彼が今回の不正に関する情報を北部第6区に密告した張本人だ。死亡したことにはなっているが、今はアビスフォースでその身柄を保護している。この件が例の実験に絡んでいるであろう上層部に露見するのは、何としても避けたい」 「...なに?...なるほど、生きているのか。...わかった、ここに関しては私からも念を押して報告をあげるようにしたほうが良さそうだな。死因についてももう少し詳しく情報を詰めるか」 「...ああ、いつも助かるよ」 アビスフォースとルーエンしか知り得ない情報をショーンに話すのも、ノイがそれだけショーンを信頼しているからこそだ。 ショーンの言葉にノイは頷いて、口裏を合わせるために情報を作り込んでいく。 「...それにしても..」 「...ん?」 それから少々の時間が経ち、他にも認識を合わせるべき点について確認を終えたという時。 ショーンのそんな切り出しに、ノイはゆっくりと顔を上げて視線を合わせる。 しかし当のショーンはノイを見据えて眉を顰めるので、ノイはこの先に続けられるであろう言葉を予期して、身じろぐようにショーンから距離を取ろうと腰を上げようとした。 それもすぐにショーンに腕を掴まれ制される。 「おい、コリンズ。飯はちゃんと食べているのか?君はセントラルにいた頃から食事に偏りがあった。それに、非番の日はしっかりと体を休められているのか?鍛錬に励むのは良いことだが、限度というものがある。それと、他になにか悩み事なんかは...」 「ショーン...」 「...なんだ?反論か?聞いてやろう。良いぞ、話してみろ」 「いや、そうじゃなくて...。...俺ももう子供じゃないんだ。それくらいは自分で...」 「セントラルにいた頃もそんなことを言ってすぐ無理をしていただろう。本当に君は昔から...」 「...」 始まってしまった。 ショーンの小言。 いつからかショーンは、ノイに対してこんなふうに心配に心配を重ねたように声を掛けることが増えた。 それも表立ってするようなことはないが、裏で会って素を曝け出すときはいつもこんな調子だ。 「...大体、この左遷に関してだってもっと他にもやり方があったはずだ。どう考えても強引すぎただろう、君のせっかくのキャリアを棒に振ることになって...」 「...」 「おい、コリンズ。ちゃんと私の話を聞け」 「...ああ、聞いてる。...うん」 「その顔は面倒だと思ってる時のやつだな。本当に、もう少し自分を大事にしろとあれほど言ったのに...」 以前「敵意」だけを向けて対立していた頃のことなんて、まるで嘘のようだ。 こんなにもショーンが心配性であったとは、昔は気づかなかったが、そんな姿を見せてくれることもノイにとってはどこか嬉しくも感じる。 「...本当に、君は良い奴だな。他のみんなにも知ってもらいたいが、歯がゆいものだ」 「なんだいきなり。私のことはいいんだよ、どうせのらりくらり躱していればあの男の口添えで昇進に漕ぎつける。他からなんと言われようと、君にわかってもらえていればそれでいい」 ───本当に、頼りになる男だ。 ショーンの嘘のない心からの言葉に、思わずそんなことを考える。 しかし、それを当てにしてショーンに負担ばかりかけ続けることになるのも限りあることにしたい。 「...だからなコリンズ、君は...」 「ショーン」 「...なんだ、どうした?」 「君もどうか無理をしすぎないでくれ。近くにいることはできないが、それでも俺は君のことを大事に思っている。」 「...」 「それに、今の軍に君は必要不可欠な存在だ。俺は心の底からそう思っている」 「...っ...、コリンズ...」 ノイからの突然の素直な吐露に、ショーンは驚いたように目を見開く。 しかし次の瞬間には、今し方言われた言葉を噛み締めるようにして瞼を閉じて、その口元に優しげな笑みが浮かべられる。 「...君が素直だと少し怖いな。まあでも、今の言葉は心の隅に留めておいてやろう」 「ぜひそうしてくれ。密かな友人としての、ささやかな願いだ。」 「...普段あんなにも淡々としているのに、君は本当に人を絆すのが上手い。私の心を弄ぶな、馬鹿者」 ショーンは照れ臭そうにそれだけ言うと、ノイの額にこつりと指先を当てて、次の瞬間にはふっと目元を緩めて可笑しそうに笑い始める。 そんなショーンに、ノイもつられて笑みが溢れた。
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