因縁の交錯

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「...はあ」 「溜息なんてついてどうした」 「...いや。...やはり君と過ごす時間は楽しくてな。あっという間に時間が過ぎてしまう。この後もセントラルの時のように君の部屋にでも泊まれたら良かったんだが」 「...」 ショーンの嘆きにも近い言葉に、ノイは困ったように眉を下げて笑う。 セントラルにいた頃、ノイとショーンは表向きは犬猿の仲のように振る舞っていたが、たまの非番にはショーンが忍んでノイの家を訪れることもあった。 外で接触することがあまりできないため、周囲に知られずして密会を重ねたのは良い思い出だ。 ノイがそう遠くはない昔を思い出していれば、ショーンは再びため息を吐いて、小さな声で言葉を紡いだ。 「...正直、セイヴの奴が羨ましい。私だって君と表立って仲良くできたら...親友だと胸を張って言えたら、どんなに喜ばしいことか」 「...ショーン..」 「しかしこればかりは仕方がない。わかってる、わかってるさ...。これも軍の悪事を暴き、種族の本当の意味での共存を実現するためには必要なことだからな。それに、もしこの件が片づけば周囲の目を気にせずに君との仲を公言することもできる」 ショーンはそれだけ言うと、何も言えずに自身を見つめているノイに視線を合わせて笑った。 「だからコリンズ、絶対に死ぬなよ。...今は傍にいてやることはできないが、志は同じ。なんとしても『私達の』野望を成し遂げるんだ」 「...あぁ、そうだな」 野望。 ───この国の軍人としての、誇りと志。 かつて見失ったそれも、今なら胸を張って自身の中で揺るぎないものになっていると言える。 それもこれも、ノイがショーンにその価値を与えてくれたからだ。 「...ショーン。俺はガラフと同じくらい、君のことを大切に思っている。それだけは忘れないでくれ」 「...は、可愛げのある君も悪くはないな。いつもそう素直なら良いのだが」 「茶化してくれるな、俺は本気で...」 「わかってる。...ありがとうな、コリンズ」 ショーンはそう言うと、少しだけ低い位置にあるノイの頭に手を乗せて、穏やかな表情でその髪を撫でて見せる。 「...いつまでも子供扱いするな」 「たまにしかできないんだ。これくらい大目に見てくれ」 「...」 普段の大人びた雰囲気を潜めて照れたように視線を伏せるノイを見てショーンは、こんな時間がずっと続けば良いのになと名残惜しく手を離した。
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