家族消失事件

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 会社に近い都会のマンションに、スーツケースを引きずりながらたどり着き、三年の間一度も帰ることができなかったためにずっと使えずにいたキーを回してドアを開けた沼瀬を待っていたのは、なにもない空間であった。  広さ七十平方メートルの、賃貸にしては広いマンションには、家財道具の一切がなかった。まるで引っ越してしまったかのように、誰かが生活していた痕跡さえなく、部屋を間違えたのかと呆然とするばかりであった。もちろん、キーが合うわけだから部屋が違ったわけではない。  まるでキツネにつままれたかのようにポツンと部屋にたたずむ。各部屋を回ってみるが、見事になにもない。生活の痕跡すらなかった。  妻と大学生の息子と高校生の娘が、なんのことわりもなくどこかへ引っ越したというのはどうにも考えにくく、沼瀬は混乱し頭の整理がつかない。
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