琵琶湖の近くのアパートで殺しです

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琵琶湖の近くのアパートで殺しです

 最近は様々なレンタル品がある。俺は派遣会社『ドラゴン』に派遣されているが、『ドラゴン』では冷蔵庫や自転車などもレンタルしてる。  2011年3月26日17時、俺は食品工場での仕事を終え更衣室で私服に着替えていた。  派遣仲間の石川和也(いしかわかずや)が「ウチの会社、モンスターも貸し出してるんだ」と教えてくれた。 「結構高いんだろ?」 「金は必要ないよ」 「無料?」 「んなわけあるかよ?人を1人殺すごとに1匹手に入るんだ」 「え?『ドラゴン』ってヤバい会社なの?」 「社長の祖先が朝霧(あさぎり)氏を滅ぼしたって話だ」    朝霧氏は魔術を駆使し、様々な敵を倒してきた。一節には山崎の合戦後、明智光秀を殺した土民は朝霧の者だったらしい。 「原……俺さ、来月でこの工場終わりなんだよ」 「何で?」 「仕事が遅いかららしい。新しく入った吉田って課長、気をつけた方がいいぞ」  吉田勇太(よしだゆうた)、50歳。どことなく阿部サダヲに似てる。  3月27日早朝  琵琶湖の近くにある木造アパートで吉田課長の惨殺死体が見つかった。首が切り取られ、トイレの便器に突っ込まれ、胴体はソファに転がっていた。  ニュースを見て、俺は石川がやったのだと確信した。  仕事に行こうと支度をしてると美山莉緒(みやまりお)から電話があった。周囲の人間はスマホを使っていたが、俺は貧乏なのでガラケーだった。 「祐也(ゆうや)、吉田課長が殺されたの知ってる?」  莉緒は『ペガサス食品』の正社員だ。石原さとみに似てる。俺からコクった。まさか、OKしてくれるとは思わなかった。 「ニュースで見た」 「私、吉田さんの家の近所に住んでるんだけど、昨日の夜ゾンビを見たの」  もしかしたら、レンタルモンスターかな? 「怖いな?今日は出勤しない方がいいよ」 「うん。あっ、そうそうこの前ね図書館で芥川龍之介の『蜘蛛の糸』借りたんだけど、本に落書きがされてた」 「ロクデナシの仕業だろうな」    猿川忠義(さるかわただよし)はゾンビに『金子(かねこ)』って名前をつけた。  吉田をノコギリでバラバラにして殺して、湖の最狭部に架かる琵琶湖大橋にやって来た。すると、レンタル屋の山西(やまにし)って上戸彩に似た美女がチャリで現れた。 「初仕事お見事でした」  チャリの後ろのカゴからペットボトルとCDを出して、俺に渡した。ペットボトルに呪文をかけるとモンスターが発生するって仕組みだ。CDはおまけらしい。L'Arc~en~Cielのアルバムだ。  猿川はペットボトルに「スンモタ、スンモタ、ルルルン」と呪文をかけた。すると、黒い煙が現れてゾンビが現れた。 「1週間以内に返却してください。彦根駅近くのショップに直接来るか、電話してくれれば受け取りに行きます」  山西はチャリを飛ばして去っていった。  猿川は吉田に恨みがあったわけじゃない。  モンスターが手に入るのなら誰でもよかった。  猿川はスープ部、原や石川はサラダ部で働いてる。  琵琶湖は世界有数の古代湖であり、その成立はおよそ440万年前まで遡る。以降現在に至るまでの琵琶湖の各時代の環境は、古琵琶湖層群と呼ばれる三重県から滋賀県にかけて分布する地層における各累層の泥・砂・礫の構成比率の違いにより示されている。  440万年ほど前に琵琶湖が生まれたのは、後の三重県伊賀市である。まず、地盤の断層運動によりできた浅い窪地に水が溜まり、40 - 50万年ほどかけて浅くて狭い湖となった。この湖は、旧大山田村付近にあったことから、大山田湖と呼ばれる。300万年ほど前になると、この湖は阿山地方にまで北上した。この時代の前期に湖は広がり、後期には甲賀地方(滋賀)に位置する北部の沈下により狭くて深い湖となった(阿山・甲賀湖、佐山湖)。260万年ほど前にはさらに北上し、水口地域・日野地域・多賀地域にまで広がっていった。この時期には蒲生湖沼群と呼ばれる小さな三日月湖などが多数集まった沼沢地群になり、その後さらに河川とその周囲の湿地といった環境になるなど、不安定な水域であった。この時代に水の流出方向は伊勢湾方面から京都・大阪方面に変わったと考えられている。  猿川はダイビングライセンスを持っている。  湖の底へと向かった。  俺は恐怖と戦いながら出勤した。どこかでゾンビに襲われたらかなわないので、果物ナイフを鞄に入れてチャリで工場に向かった。  昼飯は石川と食堂で野球の話をしながらした。  俺は塩ラーメン、石川は醤油ラーメンだ。 「石川はどこの球団が好き?」 「日本ハムファイターズ」 「昔はセネターズって呼ばれてたよね?」 「そーゆー、原は?」 「ソフトバンク。ハリーホークかわいいよな?」  ハリーホークはマスコットキャラだ。 「そうか?」  吉田の後任は扇谷要(おうぎやかなめ)って東京本社から来た江口洋介似のイケメンだ。 「しかしさ?扇谷さん、着任が早いよな?」  石川は汁をジュルジュル飲みながら、俺の話を聞いてる。あんなの飲んだら腎臓壊しそうだ。 「コクがあって美味い」  結局、石川は全て飲み干した。 「もしかしたら、扇谷さんが吉田を殺したのかも知れないな?タイミング良さすぎだって」  おまえじゃねーのかよ?こんな風に俺から思われてるとは知らないだろうな?  
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