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「エミたそ、行かないで! あっさりあの馬鹿王子の命令に従うなんて、絶対間違ってる……ッ! エミたそはなんにも悪いことしてない! しかも、よりにもよってあの偏屈なソーオン伯に嫁がされるなんて、なんなの!? あんまりだよ……!」
聖女サクラの悲痛な声に、それまで魔法陣を不思議そうに眺めていたもう一人の金髪をツインテールにした聖女がクルリと振り向いた。
サンクトハノーシュ王国に舞い降りた奇跡の聖女、エミ。
派手な金髪に、バシバシの付けまつげ、オーロラ色に輝く長い爪。シスター服はミニスカート。ギャルである。
「サクぴ、泣くのそろそろストップね~? せっかくの化粧が落ちちゃうよ? あ、サクぴは、薄化粧だから別に落ちても大丈夫か! あたしが泣いたら秒でアイライン溶けてバケモノになるかんね? 超ウケる~! あ、ヤバ、つけま取れそう~」
サクラの悲痛な声とあまりに真逆の、場違いに明るいエミの声が響く。温度差がひどい。
エミはサクラを慰めているつもりなのだろうが、その場に居合わせた侍従全員が聖女二人のあまりの会話の成り立ってなさ加減に、(このままで、大丈夫だろうか……)と思っていた。
この場で唯一聖女にツッコミを入れられる立場のはずのロイは、二人の珍妙はやりとりに慣れているのか、ただ黙っているだけだ。
エミは、盛りに盛った睫毛をシパシパさせながら、ニカッと微笑んだ。
「ま、あんまり泣いたらロイっぺに心配かけるから、ほどほどにしなね~? なにかあったら連絡よろぴ♡」
じゃ、と言いつつピースサインをバシッと決めると、聖女エミの足元にある魔法陣が光り輝き始める。
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