第1章.兆し

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第1章.兆し

〜ニューヨークシティ〜 市域人口は800万人以上、都市圏人口では2,000万人を超え、市内総生産は6,625億ドル。 全米最大の都市、及び金融センターである。 国連本部もあり、世界の政治・経済・文化・ファッション・エンターテインメントに至るまで、あらゆる分野に影響を及ぼす大都市。 シティは、次の5つの行政群(区)から成る。 ブロンクス郡(ブロンクス区) ニューヨーク郡(マンハッタン区) キングス郡(ブルックリン区) クイーンズ郡(クイーンズ区) リッチモンド郡(スタテンアイランド区) 8854106f-f180-4f5a-a181-b22cbf86ae05 ロウアー・マンハッタンのウォール街は、金融の国際的中心地であり、ニューヨーク証券取引所が置かれ、エンパイア・ステート・ビルディングやトランプタワー等の超高層ビルが建ち並ぶ。 722cbc5b-85f5-40a2-a110-713af0f42a2b しかし… 豪勢極まるニューヨークにあって、行ってはいけない場所も存在する。 タイムズスクエアから地下鉄で数十分。 舗装されていない道路。 空き家・空き地に、壊れかけのフェンス。 ブルックリン行政区でありながら、闇に伝わる三角地帯『The() Hole(ホール) 』。 ヒップホップ発祥の地でありながら、ブロンクス区の南西部にある犯罪多発地区、サウスブロンクス。 闇と暴力と貧困が共存し、シティから拒絶された者たちの溜まり場でもあった。 20:00過ぎ。 イーストニューヨーク内、ブルックリンとクイーンズの境にある『ザ・ホール』に、通報を受け、警察と救急車が着いた。 救急隊も、警察なしでは決して立ち入らない。 小雨の中、古ぼけたアパートの前で手招きしている男。 野次馬は1人もなく、明かりも乏しい。 「臭っ!」 車を降りるなり、その悪臭にハンカチを取り出して、鼻と口を塞ぐ。 ニューヨーク市警、アレン・カーター。 予想していた相棒のイザベラ・カトリスは、マスクを着用していた。 「アレン、あげましょうか?」 「さすが用意周到だな、貰うよ」 マスクを受け取り、すぐさま着ける。  ザ・ホールは、海抜マイナス9メートルに位置しているため、下水設備が整っていない。 雨が続くと地下タンクの汚水が溢れ、通りは水浸しとなるのである。 「市警のアレンとイザベラ刑事だ。発見したのはお前か?」 「はい。このアパートの管理をしてます」 管理とは程遠い荒れ様と、ホモーク族独特の(なま)りに、つい嫌悪感を覚えるアレン。 管理人の後に続いて、薄暗い中へと入る。 10階建ての比較的大きな古いアパート。 市の基準では、営業許可は出ない物件である。 だが…市の局員が訪れることはない。 「部屋は?」 「8階になります」 そう言って、エレベーター横の階段へ向かう。 「おいおい、エレベーターは?」 アレンの声を気にもせず、登って行く管理人。 「動くわけないでしょ、アレン。もし動いても、乗る気にはなれないわ。いくわよ、ほら」 「勘弁してくれよ」 ボヤきながら振り向く。 「救急隊は下で待機。君、残って護衛を。鑑識班と検死官が着いたら、8階だと伝えてくれ」 パトカーで駆けつけた若い警官に指示し、仕方なく登り始めた。
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