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「あれ......」
「ああ。あいつが死者の終着点だ。悪いほうのな」
「...っ......どうするの?」
細い声が聞こえて、それに奈々瀨が言葉を返そうとするのと同時に、化け物が動き出す気配を感じた。稔の視線がまたその黒い悪霊へ移ろうとしていることに気づいて、思わず右手で牽制した。
「下がっていろ」
「あっ、うん。わかったわ!」
大人しく稔が引き下がったのを一瞥して、相手へと向き直る。だが実際には奈々瀨自身、この状況にどう対応すれば良いのかが全くと言っていいほどわかっていなかった。家の仕事をずっと続けていて、こんな事態になるのは初めてのことだった。
睨みつけて威嚇する以外の手段を持たない彼らへ、人の形をしたものは一歩歩みを進めた。それの触れた床が黒く染まった。しかし、照準をこちらへ向けているわけではなく、ただ動作を確認したというような歩きを見せていることがせめてもの救いだろうか。
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