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プロローグ
「政略結婚などしないと何度言ったらわかるんだ」
花嫁候補の名前が書かれた釣書を開くことなく机に叩きつけた。
「心に決めた女性がいると言ったはずだ」
「ロナルドお坊ちゃま、これは旦那様からのご命令でございます。拒否権はありません」
豊かなロマンスグレーの髪を綺麗に後ろに撫でつけ、体にほどよくフィットした皴ひとつないバトラースーツに身を包む執事が抑揚のない声で告げる。
「お坊ちゃまと呼ぶなと言ってるだろうが」
一体この執事はいつまで自分を子供扱いするつもりなのかと、うんざりした口調で窘めたものの、執事はまったく反省する様子もなくにこりと微笑んだ。
「次期侯爵ともあろうお方が二八歳にもなって奥様はおろか婚約者さえいらっしゃらないのですよ。私からすればロナルド様はまだまだ『お坊ちゃま』でございます」
あと少し。
あと半年待ってもらえれば、意中の女性に求婚する予定でいた。
しかしマーシェス侯爵家の当主である父が病に倒れ余命宣告までされてしまったがために、長男である自分が家督を継ぐしかなく、父を安心させるべく急遽身を固めなければならなくなったのだ。
これも侯爵家に生まれた運命だと思って受け入れるしかないのだろうか。
あの子の笑顔と俺の名を呼ぶ溌溂とした声をふと思い出した。
それを振り払い、ため息をつきながら仕方なく花嫁候補の釣書を開いたのだった。
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