22・心、キミ逝く。

3/6
66人が本棚に入れています
本棚に追加
/158ページ
 エレベーターが到着の合図を知らせる。あたしと孝弥は振り返った。ドアが開いて、先にモヨが現れる。続いて、沖野さんもこちらに歩いてきた。 「詩乃、孝弥、お待たせ」  モヨが笑いかけてくれるから、なんとなくホッとする。  後ろにいた沖野さんも、少し疲れたように影を纏っているけれど、笑ってくれた。  座っていた孝弥が立ち上がって、勢いのまま沖野さんに向かっていくのを見て、あたしはハッとしながらも見守るしかない。 「……奥田江莉との婚約は、どうなったんですか?」  いきなり本題に入る孝弥に、沖野さんは困ったように眉を下げた。無言のまま歩き出し、隣の部屋のドアを開けた。中へ入るように手を向けてくるから、それに従う。  部屋の中は、モヨと一緒に来た時に通された部屋と同じ。もう、窓からの景色にあたしは驚かなかった。ただ、沖野さんが、孝弥が、モヨが、なにを語るのかだけが不安になる。  沖野さんから一番離れた位置にあたしは座った。 「婚約なんて、あいつが勝手に決めたことだから、白紙に戻した。そして、今後一切、奥田グループとの関係も切ることになった」  沖野さんより先に、モヨが口を開いた。口調は怒っているけど、どこかホッとしているようにはっきりと伝わる。 「僕は、初めから江莉さんとの縁談は断り続けていました。だから、今日のことももちろんお断りしました」  真っ直ぐに孝弥を見つめて、沖野さんは言う。  孝弥の疑う瞳が、緩んでから今度は悲しみの色を纏う。涙が溢れているわけではないけれど、どこか納得したように頷く孝弥は、持っていたカバンから何かを取り出した。 「……これ、ねぇちゃんの日記です」  一冊の本のようなものを取り出して、沖野さんへ向けた孝弥。あたしは、思わず一歩みんなに近づいた。  沖野さんが戸惑いながらもそっと受け取ったキヨミさんの日記は、厚い本型の日記帳。 「……僕が見ても、良いんですか?」  沖野さんが確認するように聞くと、孝弥はコクリと頷いた。モヨも興味ありげに沖野さんの手元を覗き込む。  パラパラと、ページを捲る沖野さんは、最初からゆっくりとキヨミさんの言葉を確かめるように目でなぞりはじめた。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!