アオザイの国

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 ルアーをバイブレーションに変えたのは正解だった。キャストしてリールを巻き始めると、イワシを模した青いメタルのボディが水中を震えるように泳いで大型魚を誘う。狙い通り、五秒とかからないうちにヒットした。  魚の抵抗で竿先が大きくしなる。強引に巻き上げるとラインが切れそうだ。多分、ブリ系の青物だろう。久々にかかった大物だ。バラすわけにはいかない。  梅雨が明け、蝉の声がうっとおしくなった日曜の午後だった。直哉は起き上がるとベッドに腰かけて態勢を整えた。スマホの画面に表示されているリーリングボタンを慎重にタップしながら獲物を引き寄せる。一瞬、魚が水面で飛び跳ねて姿が見えた。やはり青物だ。  抵抗が激しく、テンションゲージが一杯近くまで上がりっぱなしになっている。やはり無課金で入手出来る釣り竿では厳しいのか。だがもう少しだ。  タップの感度を上げようと人差し指を舐めた。と、そのとき電話の着信があった。直哉がその表示に気を取られた一瞬だった。ラインが切れ、魚は水中に消えて画面に『残念・・・逃げたのは8キロのヒラマサだった』の文字が表示された。
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