二、待てなかった理由

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 しかしそこからまた、二人きりになるまで長かった。  櫂も平本も、貴重なノートや資料を携えてきていたから大学の研究室へ持っていく。そこでほかの学生たちにつかまって話に花が咲く。ちょうど昼どきだからみんなで飯を食いに行こう、となる。  定食屋を出て学生たちから解放され、やっと櫂と二人きりになれたと思いきや、櫂がおずおずと切り出す。 「ねえ、哉さん。風呂に寄ってもいいかな」 「え?」 「もう三日も湯を浴びてなくて」 「……わかりました」  結局、哉はその日二度目の風呂に入ることになる。すでに朝風呂を浴びたことは言い出せなかった。  洗い場で櫂の裸身を見せつけられるのは何の仕置きだろうか、と哉は思う。  ふるいつきたくなるのをどうにかこらえた。  のんびり湯船に浸かろうとする櫂を急かして風呂を出ると、空模様が怪しい。真っ黒な雲が垂れ込めている。遠雷が聞こえると思ったとたん、頬にぽつりと来た。 「……櫂さん、走ろう」 「えっ、雨宿りしていったほうがいいんじゃないかな」 「いいから。早く帰ろう。……もう待てないんだよ」  苛立った声を上げる哉を、櫂が驚いた顔で見た。  哉は有無をいわさず櫂の手首をつかみ、駆けだした。  そして夕立にずぶ濡れになりながら、櫂の自宅まで帰り着いたのだった。 (第三話につづく)
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