52人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
しかしそこからまた、二人きりになるまで長かった。
櫂も平本も、貴重なノートや資料を携えてきていたから大学の研究室へ持っていく。そこでほかの学生たちにつかまって話に花が咲く。ちょうど昼どきだからみんなで飯を食いに行こう、となる。
定食屋を出て学生たちから解放され、やっと櫂と二人きりになれたと思いきや、櫂がおずおずと切り出す。
「ねえ、哉さん。風呂に寄ってもいいかな」
「え?」
「もう三日も湯を浴びてなくて」
「……わかりました」
結局、哉はその日二度目の風呂に入ることになる。すでに朝風呂を浴びたことは言い出せなかった。
洗い場で櫂の裸身を見せつけられるのは何の仕置きだろうか、と哉は思う。
ふるいつきたくなるのをどうにかこらえた。
のんびり湯船に浸かろうとする櫂を急かして風呂を出ると、空模様が怪しい。真っ黒な雲が垂れ込めている。遠雷が聞こえると思ったとたん、頬にぽつりと来た。
「……櫂さん、走ろう」
「えっ、雨宿りしていったほうがいいんじゃないかな」
「いいから。早く帰ろう。……もう待てないんだよ」
苛立った声を上げる哉を、櫂が驚いた顔で見た。
哉は有無をいわさず櫂の手首をつかみ、駆けだした。
そして夕立にずぶ濡れになりながら、櫂の自宅まで帰り着いたのだった。
(第三話につづく)
最初のコメントを投稿しよう!