Side story

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この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 (注)この作品は、本編『前世への目覚め』のスピンオフ作品となります。 本編『前世への目覚め』ケース1〜10を読んだ後に、是非見てください! 前日譚、プリクエルになります! 本編では語られる事のなかった、知られざる物語・・。 妹・千恵は何故、死んだのか・・・・? そして、貴志に伝えようとしていた事とは・・・? 青い空と、照りつけてくる日差しの暑さ。 どこからともなく蝉の鳴き声が飛び交い、真っ直ぐに伸びた向日葵《ひまわり》たちが、遠い空を見つめている。 そんな長閑な町の裏通り。 「いらっしゃ〜い‼︎」 快活な声が、澄み渡る空の下に響き渡った。 ここは、僅か六畳程しかない広さの、とある店舗。 表のレトロな看板に、緑色の文字で 『タコ焼きハウス』 と、書いている。 狭い店の中は、やや熱気が立ち込めており、正面の壁には数枚のメニューが貼られてあった。 高温に熱せられた半球型の窪んだ穴の鉄板の上に、予《あらかじ》め作られていたクリーム色の生地が流し込まれていく。 その半球型の窪みに、およそ半分程の量の生地がテキパキと手早く注がれていくのだ。 それが一瞬のうちに香ばしい香りを漂わせたかと思うと、次々と生地の中へ、一口サイズの茹《ゆ》でタコが放り込まれていく。 続いて、天かすが無造作に散りばめられていった。 生地の中に埋もれた、具材のタコと共に、焼き上げられていくのだ。 グツグツと煮えたぎってきたかと思うと、あっと言う間に生地の端が白くなり、固まりかけた素材として姿を変えていく。 先の鋭利な調理用具によって、窪んだ穴に沿って生地を区切り、溢れた生地を再び中に押し込みながら、繰り返し転がされるように反転させられていった。 その頃には、先程まで液状だった生地も、ピンポン玉サイズの球体へとその姿を変えていく。 更に焼き上げられていくうちに、薄茶色い焦げ目のついた焼き色の原形へと変わり、湯気が立ち込めていくのだった。 そのうちに、先程の鋭利な調理用具によって、その焼き上がった球体は、次々とプラスチック容器へと移されていく。 一つの容器に、8個の球体が綺麗に整列し、まるで風呂上がりのように、その熱気を発しながら鎮座した。 それらの上から容赦なく、トロリとした黒茶色っぽいタレが、ハケによって塗り込まれていく。 あとは、その上から追い討ちをかけるように、濃い緑色の青海苔と、粉末状の魚粉なるモノが振りかけられていくだけだ。 まるで、一つの作品が仕上がったかのように、その涎《よだれ》が出そうな造形と、食欲をそそる香りには、誰しもが喉から手が出る一品料理なのである。 「はい! お待たせ〜! タコ焼き、一つね!」 そうして出来上がった、熱々のタコ焼きのパックをビニール袋に詰めながら、店主の叶恵が言った。
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