Side story

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「大丈夫だよ、ママ。その治療を頑張れば、病気も治るんでしょ。僕、頑張るから。」 「那智・・。」 冴子は、もうそれ以上、返す言葉が見つからず、一人震える拳を握りしめるしかなかった。 そして、那智の放射線治療がはじまり、病室で幾日も苦しむ日々が続いている。 痛みと吐き気、食事も喉を通らず、一日中ベッドで寝ている状態。 見兼ねた冴子が、ある日投げかけた。 「那智・・。もう我慢出来ないなら、治療をやめてもイイのよ。」 青白く、痩せこけた那智は、苦しみを堪えながら返答する。 「いや・・、ママ。大丈夫だよ。僕、頑張れるよ。」 毎日、病室に寝泊まりし、那智の傍にいた冴子は、外でひっそりと輝く月に、祈りを捧げた。 「どうか、お願いします。この子の命だけは、どうかお助けください。」 その後、定期的に検査をした結果、医師は驚きの声をあげる。 「どういう事だ。奇跡だ。前回よりも、癌が小さくなって軽快し、データ値が良くなってきている。」 那智はニッコリと冴子を見つめて、笑顔を見せた。 それからしばらくして、那智の退院の日。 冴子と那智は、医師や看護師たちに頭を下げていた。 「本当にお世話になりました。」 無事に、退院していく那智。 家に帰り着いた那智は、嬉しさのあまり、はしゃぎ回る。 そんな様子を見ながら、冴子はまた涙を流しながら言った。 「那智が、生きてこの家に帰ってくるなんて。本当に奇跡。感謝しなきゃ。」 「僕ね。ママの為なら、何だって頑張るよ。」 幼くも凛とした表情で、那智が返す。 冴子は強くそして優しく、那智を抱きしめた。 それから月日が過ぎて、また那智が倒れる。 手足や表情に強い麻痺症状が出て、歩行がふらつき、嚥下障害が出てむせ込んだりした。そして、発熱を起こす。 すぐに、病院へ行き検査をしてもらうが、手足の麻痺、呼吸困難など、症状が悪化していく。 険しい表情の医師は、冴子に伝えた。 「う〜ん、また放射線治療が必要ですな。どうしますか?」 あんなに元気になったかのように見えた息子・那智が、再び、病状悪化した事に冴子は受け入れられないでいる。 しかも、またあの辛い入院と治療が必要だなんて・・・。 那智に、また苦しい思いをさせてしまう。 冴子はその場に崩れ落ちて、顔も上げられない程に泣き崩れた。 「どうして・・・。どうして・・・。」 しかし、現実は非常なもので、その後、状況をうまく那智自身に伝えなくてはならない。 「あのね・・。それで那智。もう一回だけ、前にやった放射線の治療を、ね・・・。」 言いづらそうに言葉を繋げていた冴子が、そこまで話した時点で、パッと理解したのか、那智の方が訴えた。 「ママ。僕は大丈夫だよ。また治療して、必ず元気になるから。だから、心配しないで。」 「那智・・・。」 それからすぐに再入院となり、那智の放射線治療がはじまる。 前回にもまして、治療は辛いもので、那智は食事もろくに摂れないほど嘔吐と全身倦怠感に襲われた。 顔色も青白く、ほとんどベッドで寝ている事が多くなる。 それでも、一緒に病室で寝泊まりしている冴子の顔を見ると、那智は笑顔を見せて話しをした。 「ママ・・。大丈夫だからね。」 「那智・・・。こんな辛い思いをさせて、ゴメンね。」 「ママ。謝らなくていいよ。僕は、大丈夫だから。」 それから、しばらくの間、放射線治療が続く。 傍で付き添いながら、我が子・那智の苦しむ姿を見続ける冴子は、いつも不安と悲しみに暮れて、事あるごとに謝るのだった。 全身の苦痛と倦怠感に襲われ、眠った状態が多い那智であったが、目を開けた時には母親・冴子に笑顔を見せ続ける。 また月日が過ぎていき、親子の強い想いが、奇跡を起こした。 「思った以上に、検査結果が良くなってきているようです。凄い事です。」 医師も驚きの声を上げる。
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