ある委員会の広報誌より

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ある委員会の広報誌より

 後ろめたいことほど楽しいものはない。  背徳感とは、なんと缶ビール……でなくて、なんと甘美なこと。  たとえば、このような事例はいかがであろうか。  人目を忍び、特定の嗜好者でなければ立ち入ることができない禁断の聖地にこっそり脚を運ぶ。そこでは誰もが、後ろめたさで目を伏せながらも、至福の時を過ごす。背を丸め、こそこそと身から、片手に収まる大きさにまとめられた包みを取り出す。  その小さな包みには、指の長さに揃えられた程よい弾力を持つ棒がいくつも入っている。棒の直径は大体小指の半分ほどだろうか。  棒を取り出し口に加え、もう片方の先で激しい酸化反応を起こさせる。  その刹那。魂は清められ高みに昇るのだ。  できうることなら、この禁断の聖地に留まっていたい。  しかし、非才の我が身に与えられた時は、ごくわずか。  女神の(いざな)いを振り切って聖地を去り、再び戦いの場に赴く。  戻った我を、同志が暖かく迎える。 「いいよねー、喫煙者って。煙草タイム認めてくれるなんて。こっちもお茶タイムとかお菓子タイム、欲しいよ」 「思い切って禁煙しましょ! 最初の三か月耐えれば、大丈夫だって。オレ、すっかり健康になっちゃいましたよ」 「マジ、肺がんって一番ヤバいんだよ」 「吸うのは勝手だけど、その臭い、何とかして」  周りから犯罪者のように責められ、詰られ、存在自体が害悪だと言われ続ける。  責めさいなむ言葉ほど、心地よいものがこの世にあろうか。  だから、煙草はやめられない。
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