静かな湖畔の森

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 白い月明かりが湖畔に影を落としている。  アルミサッシの窓を開け、煙草をふかす。コテージから一望できる真夜中の湖を男がしばらく眺めていると、春先のやや生暖かな夜風が吹き込み、そのたびに水面下に沈み込んだ満月は原型を留めきれずに幾度も朧月へと転じていく様が見て取れた。地の底のように真っ暗な空にぽっかり浮かぶ月が青ざめた光を発している。薄明が水面で引き延ばされ、風が凪いだ。湖面に浮かび上がった月が波に砕けて揺らぐ。コテージから程近い場所に位置する湖は空の月を映し出す鏡の役割を担っていた。  一服を終えた男が窓を閉め切り、後ろを振り返る。そこには全身の皮膚が捲れ上がり赤黒い肉人形と化した人体が吊り下げられていた。胸の膨らみがないことや体格の良さ、そして股座に生えているモノから性別は男だと判別できた。しかしこうも人間らしい部分を根こそぎ削ぎ落とされてしまっては人というよりむしろ、肉魂。  屋根の梁に垂らされたロープで肉人形の両手はきつく縛り上げられていた。そして所々、かろうじて残されている肌色の皮膚がかつてそれが人であったことを主張している。
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