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永い冬
ぴりりとした音が、耳朶を引っ掻く。
それに気づいて空を仰ぐと、遥か離れている白の太陽が、淡い玉虫色の海に白い道を作っている。
玉虫色がちらちらと色を変えて、ぱっと飛び散ったかと思えば再び海に戻る。
その光景を飽きずに見ていたが、そうも言ってられなくなったことに、遅まきながら気づいた。
ああ、また冬が来るのか
再びぴりりと空が震える。
帰宅の足を早める彼女だったが、その音は段々と大きくなり、走り出した彼女をまたたく間に追い越してゆく。
(暦の上ではもう少し先の筈なのに)
空を見上げる暇もなく、ぴりりという音だけが大きくなってゆく。
白い太陽は既にその存在を水平の下に隠しており、代わりに蒼く斑な月が、やはりこちらも遥か遠くにほんの少しだけ顔を出す。
それを確認するかしないうちに、金属が唄うような声が聞こえ始めて、さらに慌てた。
(早すぎる。しかも大きい)
背中に向かって毒づいたところでどうにもならないことはわかってはいる。だが銀の鈴を振るような声が、既に走る彼女をとっくに追い越してしまった。
(まずい!)
地面に落ちるその音は、最初こそ微かな鈴の音だったが、やがてその数を増やし、水が流れる音となって、幾万も降り注いだ。
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