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「博士はどこにいる。今も研究所にいるのか?」
女は問い詰めながら、顎を抑える左手を少しだけ緩めた。
「あ、アンタいったい——ッ!」
即座に刃をグッと押し付け、余計なことはしゃべるなと警告する。喉元から血がツーっと伝い、こちらが本気であることを示す。
兵士は懇願するように顔を振る。再び左手の圧力を緩めると、ワナワナと震える口元を動かして兵士は言った。
「……そ、そうだ。博士は、ずっと研究所にいる……」
マスクで覆った顔の下で、女はニヤリと笑った。「助けて……」と懇願する兵士の口元を抑えると、女は銃剣で何の躊躇いもなくその心臓を滅多刺しにした。驚愕に見開いた兵士の悲鳴を無視して、女は何度も何度も兵士の心臓に刃を突き刺した。
10回ほどで銃剣を引き抜き、息が途絶えたことを確かめる。ピクリとも動かなくなった血まみれの死体から腰を上げると、何事もなかったかのように腕の防水時計を確認する。
本来、この2人組が次の報告ポイントに辿り着くまでの時間は、およそ10分。
充分だ。これだけの時間があれば、目的は達せられる。
女は上陸した岩場に戻ると、暗黒の海原に向けて、「出てきていいよ」と声を張った。
打ち付ける波が、足元の岩に混じって砕ける。そうしてしばらく海を眺めていると、ポツリポツリと、ゴミや海藻とは違った影が海面に浮かび上がってきた。
人とは思えない、この惑星のどんな生物の系譜にも当てはまらない異形の群れが次々と、暗黒の海原から顔を出して現れる。
満足そうに女は口元を吊り上げると、岩の上で身を翻して、目の前の浜辺を見つめた。
雲ひとつない月明かりに照らされて、見渡す限りの木々がざわめいている。
「じゃあ、始めよっか」
指揮官である女が口にしたのは、その一言だった。
背後の異形たちが熱病に浮かされたように活気付き、この世のものとは思えない喝采が浜辺に響いた。
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