Prologue【1】

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「博士はどこにいる。今も研究所にいるのか?」  女は問い詰めながら、顎を抑える左手を少しだけ緩めた。 「あ、アンタいったい——ッ!」  即座に刃をグッと押し付け、余計なことはしゃべるなと警告する。喉元から血がツーっと伝い、こちらが本気であることを示す。  兵士は懇願するように顔を振る。再び左手の圧力を緩めると、ワナワナと震える口元を動かして兵士は言った。 「……そ、そうだ。博士は、ずっと研究所にいる……」  マスクで覆った顔の下で、女はニヤリと笑った。「助けて……」と懇願する兵士の口元を抑えると、女は銃剣で何の躊躇(ためら)いもなくその心臓を滅多刺しにした。驚愕に見開いた兵士の悲鳴を無視して、女は何度も何度も兵士の心臓に刃を突き刺した。  10回ほどで銃剣を引き抜き、息が途絶えたことを確かめる。ピクリとも動かなくなった血まみれの死体から腰を上げると、何事もなかったかのように腕の防水時計を確認する。  本来、この2人組が次の報告ポイントに辿り着くまでの時間は、およそ10分。  充分だ。これだけの時間があれば、目的は達せられる。  女は上陸した岩場に戻ると、暗黒の海原に向けて、「出てきていいよ」と声を張った。  打ち付ける波が、足元の岩に混じって砕ける。そうしてしばらく海を眺めていると、ポツリポツリと、ゴミや海藻(うみも)とは違った影が海面に浮かび上がってきた。  人とは思えない、この惑星のどんな生物の系譜(けいふ)にも当てはまらない異形の群れが次々と、暗黒の海原から顔を出して現れる。  満足そうに女は口元を吊り上げると、岩の上で身を(ひるがえ)して、目の前の浜辺を見つめた。  雲ひとつない月明かりに照らされて、見渡す限りの木々がざわめいている。 「じゃあ、始めよっか」  指揮官である女が口にしたのは、その一言だった。  背後の異形たちが熱病に浮かされたように活気付き、この世のものとは思えない喝采が浜辺に響いた。
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