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Prologue【2】
……ピチョン——ピチョン——ピチョン……。
私がうっすらと目を覚ましても、軽く透き通るような水の音は、まだ眠りの余韻が残る私の耳にしっかりと残留していた。
まどろむ意識の中で水の音を聴いているうちに、ああ、今は夜中だな……とぼんやりと考えた。
薄く目を開くと、プールの底に沈んで見上げたように、ゆらめいて歪んだ青一色の視界が広がる。
液体の中にいるのだと、私は理解した。
でも、呼吸はできる。慣れたもので、驚くことはない。酸素飽和度の高い特殊な水溶液が、カプセルの内側を満たしているおかげだ。
プログラムがこちらの覚醒を感知したのか、水溶液が自動で排出されていく。それと同時に肺からも水溶液が抜き取られ、カプセルの中に横たわる私は、咳き込みながら身悶えた。
(私、どうしてこんなことをしているんだろう……)
喘鳴がひと通り落ち着くと、おもむろにカプセルの蓋がグンと横へ開かれた。外の空気が入り込み、濡れた体を冷えびえと震わせる。
ピッチリとしたスマートスーツが肌に張り付く感覚に気持ち悪さを覚えながら、私はゆっくりと台の上で体を起こした。
身体の動きが痺れるように緩慢で、こちらが願う半分も動いてくれない。機械と接続した時の感覚を、まだ身体が覚えているためだ。私は這うような動きで、棒切れになった両足をカプセルの外に投げ出した。
「お疲れ様です。マグライアー博士」
白衣をまとった医務官の兵士が近づいてくる。実験の分析担当のひとりだ。名前は覚えていない。部屋には他にも2人の兵士がいて、白一色に染められた空間の両隅で、小銃を携えてこちらを見ている。
「結果はどうだった?」
私は不快感を隠すことなく、目の前の医務官に尋ねた。
「現在解析中です。立てますか?」
「結構よ。大丈夫だから……」
差し出された手を断ると、私は少しは感覚が戻ってきた体を酷使して、カプセルの横に立った。
「シャワー、浴びさせてもらうから」
「主任がこちらへ来ています。それをお待ちになった方がよろしいのでは?」
「それこそ結構よ。どうせいつもの思ってもいない労いでしょ?」
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