雨音に紛れる

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「あら、やだ。こんなにも降っていたのね」 母が窓の外を見て、素っ頓狂な声を上げながら外に出ていった時、ご飯を食べていた僕は、一瞬、動きが止まる。 。 急いで胃に流し込み、立ち去ろうとする僕の背に、「ちょっと手伝ってよ」と叫ぶ母の声を完全に無視し、二階の自室に行き、鍵を閉める。 少しだけ上がった息を整えながら、窓へと向かう。 さっきまで青空が見えていた空は、すっかり厚い雲に覆われ、夜のような暗さへと変わり、反射で窓に僕の姿が映る。 「雨が降ってきたよ。──」 そっと、窓に手を置いた。 傍から見れば異様な光景であるが、僕は誰かに問うように言った。 「爽雨(そう)。会いに来てくれて、嬉しいよ」 窓に映った自分──僕がと呼んだ相手が、言葉通りに嬉しそうに笑った。
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