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うそでしょ、ここ三階……。
バリーンッ!
ものすごい音を立てて、強化ガラスだったはずの窓が、ジョロキュアの飛び蹴りに粉砕される。蜜子はそのまま落ちていく。
「きゃあっ」
「――見てみろ」
耳元で声がした。目を開けてみると、キラキラ輝くガラスの破片と、強面の彼の笑顔。その先に視線を移せば、眼下には何の変哲もない街が広がっている。それでもこんな状況だからなのか、なんでもない風景が、とてもきれいなものに見えた。
「きれいだ」
つぶやく彼にうなずく暇もなく、重力に従って落下する。地上三階から落ちたというのに、ジョロキュアは蜜子を抱えたまま、見事に着地した。
心臓がばくばくする。
蜜子は、自分を軽々と抱えたままの青年を見つめた。青年は笑って言う。
「腹が減った」
「まったくもう」
今感じたどきどきは気のせいだったのだろう。そう思い直しながら、騒がしいサイレンの音が近づいてくることに気が付いた。
「ごはんにありつきたかったら、ここから逃げおおせてからよ」
そう告げれば、ジョロキュアはにかっと笑った。
「承知した」
その恋の逃避行は、なんだかんだで現在まで続いている。
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