辛杉家の憂鬱 蜜子編2 吊り橋効果

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 うそでしょ、ここ三階……。  バリーンッ!  ものすごい音を立てて、強化ガラスだったはずの窓が、ジョロキュアの飛び蹴りに粉砕される。蜜子はそのまま落ちていく。 「きゃあっ」 「――見てみろ」  耳元で声がした。目を開けてみると、キラキラ輝くガラスの破片と、強面の彼の笑顔。その先に視線を移せば、眼下には何の変哲もない街が広がっている。それでもこんな状況だからなのか、なんでもない風景が、とてもきれいなものに見えた。 「きれいだ」  つぶやく彼にうなずく暇もなく、重力に従って落下する。地上三階から落ちたというのに、ジョロキュアは蜜子を抱えたまま、見事に着地した。  心臓がばくばくする。  蜜子は、自分を軽々と抱えたままの青年を見つめた。青年は笑って言う。 「腹が減った」 「まったくもう」  今感じたどきどきは気のせいだったのだろう。そう思い直しながら、騒がしいサイレンの音が近づいてくることに気が付いた。 「ごはんにありつきたかったら、ここから逃げおおせてからよ」  そう告げれば、ジョロキュアはにかっと笑った。 「承知した」 その恋の逃避行は、なんだかんだで現在まで続いている。
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