辛杉家の憂鬱 蜜子編2 吊り橋効果

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 二十数年前。  燃え盛る炎の研究室。ああ、私はここで終わるのかしら。蜜子は観念して目を閉じた。  日々研究に明け暮れて、あれこれ開発してきたけれど、その結果がこの火事になってしまった。 「……やっぱり、辛い物なんて嫌いだわ」  そうよそう、辛味がこの世にあるからいけないんだわと半ばやけくそに考える。  そもそもの発端は、蜜子たち一族がほとほと辛い物が食べられなかったことにあった。  そんなの気にしなければいいのに、何代か前の当主が、当時交際していた女性と中華料理屋にデートに行って、お察しの通りそこで破局。以来蜜子の一族は、香辛料が人体に与える辛味という刺激に注目し、人間が辛さを感じなくなるにはどうしたらよいかについての研究をするまでになったのだ。  なんともあほらしい研究だけれども、すでに隣の研究室では人体実験まで行われているし、無茶な研究に耐え兼ねて死亡する被験者も出たほどだ。すでに後には引けないところへ来ていた。
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