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あのぶつかって来た通行人を毎日のように付け回し、行動パターンを把握し、最も人気が少ない場所で襲いかかり、包丁で滅多刺しにするのはどうだろうか。
「犯罪をするなら雨の日がいい、匂いが残りにくく、痕跡は簡単に消える。後は死体の処理についてだが……」
1人目の被害者の全容を書き終えると、次は2人目の被害者である不良を考える。
群れでしか行動できないあの不良には、最大の孤独を与えてやるのが最適だろう。
仲間に裏切られる形で死ぬのはどうだろうか。
「なら、流行りのデスゲームだな」
徐々に精神を病んでいくあの不良を想像するだけで興奮し、筆が早くなる。
そんな時、偶然小説の大会でホラーテラー賞なるものが開催されている事を知った。
あいつらを見せ物するには丁度いい場所ではないか。
そう感じた俺は、欲望のままに書いたその小説を応募すると、それは目論見通りに受賞し、夢であった書籍化に成功した。
だが、その作品は特にこれといって売れる事はなく、結果他の書籍たちの中に埋もれていく。
何故だ、何が足らなかった。
やはり俺は不幸な人間だ。
初の書籍化と言う事もあり、自分の意見を押し殺し、編集の意見を全部受け入れたからか。
いいや、それもあるだろうが、そもそも俺にはまだ実力がそこまで届いてなかったのかもしれない。
俺には。あの編集を黙らせる知識や経験が少なかった。
「あぁ、そうか……」
数年間封じられたカーテンを開けると、埃が舞、室内に目が眩むほどの明るい日差しが差し込み、体がよろめく。
青々とした空と透けるような薄っすらと漂う白い雲。
明るい緑色の街路樹に群がる薄茶色のスズメに向かい、ケツを突き上げ戦闘体制に入る黒ブチの野良猫。
俯いて生きてきた俺の前に姿を現したのは、そんな色鮮やかな外界の景色だった。
窓を開けると風が室内に流れ込み、そこで初めて外と中の匂いの違いに気づく。
そうだ、俺には圧倒的に経験が足らない。
「ならば、小説の為にたくさん経験すれば良いじゃないか」
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