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父さんには昔、彼氏がいた。
父さんはパンドラの箱を持っている。
決して開けてはいけないと言う箱。
一度父さんの作業部屋に忍び込み、その箱を開けようとした事がある。確か小学校低学年くらいだった。
薄らぼやけた記憶だけど、黒い箱だった。
子供の勘だった。
この箱の中にはきっと驚くものが入っている。
そんな気がした。
けど、箱を開ける前に父さんに見つかり勢いよく箱を取り上げられた。あまりの勢いに爪が折れた事を覚えている。
「これに触るな」
聞いた事もない低い声だった。
俺はそんな父さんの声がトラウマになり、あの日から父さんの作業部屋には入っていない。今日までは。
数十年ぶりに俺は父さんの作業部屋に入った。
本当は入りたくなかった。
この部屋を見るとあの日の低い父さんの声がするから、怖くて嫌だった。
それでも入らなきゃいけない理由は、母さんに頼まれたからだ。
入院手続きに印鑑が必要かもしれないから、父さんの作業部屋から探して欲しいと。
昨日、父さんが倒れ緊急搬送された。
原因は睡眠不足と軽い脱水、そしてストレスが重なってしまった為だとか。
今日血液検査と尿検査をしたらしいが、特に異常は見られなかったようだ。
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