最後に笑うのはあたしのはず

4/10
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 樹璃と長美は湯船の中でお互い見つめ合う形となった。しばしの沈黙の後、口火を切ったのは樹璃の方だった。 「どうだった? あたしの彼氏」 「どうだったって…… 別にとしか」 「もう、長美ったら。あなたの義兄さんになるんだから、もうちょっとマジメに答えてほしいな?」 どう答えたものか。樹璃が結婚し、家から出て行けば会う回数もそう多くないだろう。正直なところ、どうでもいい。長美は頭を捻り社交辞令を頭の奥の引き出しより引き出した。 「いい人だと思うよ。背も高いし、顔も整ってるし、えっと…… パイロットさんだっけ? エリートじゃない! お姉ちゃんもいい人よく引っかけたね?」 樹璃はフンスと鼻息荒くドヤ顔を見せつけた。それにも拘らず中近世に描かれた女神の絵画を思わせる程の芸術品に見えるのは素材の違いだろうか。本当に神は不公平だ。長美は溜息を吐いた。樹璃は琥珀色に輝く浴室の照明を眺めながら天を仰いだ。 「いっぱい、男の人と付き合ってきたけど…… 睦応さんだけだったな。外見でものを見なかった人。本当に誠実よ」 基本、樹璃に言い寄る男は外見目当てである。昔から、皆より外見を褒め称えられ続けていた故か、慣れすぎて心が麻痺し、当然のことと考えるようになり、外見を褒められても「嬉しく感じる」ことすらもなくなってしまった。 長美は外見を褒められたことがない…… 最悪の場合は姉と比べられて侮辱されることもあった。 そんな長美からすれば外見を褒められても何も思わないということは単なる自慢混じりの嫌味に過ぎない。 長美はその話を聞くだけでイライラとしてくるのであった。つい、否定気味な嫌味を吐いてしまう。 「パイロットさんでしょ? 毎日美人さんのキャビンアテンダントさんと一緒でしょ? お姉ちゃんみたいな美人さんを見慣れているだけでしょ?」 樹璃は一瞬顔を歪めた。長美の言う否定的な嫌味を聞く度に毎回である。 「こら、長美はちょっと口が悪いぞ? 悪いのは口だけにしとかないといい彼氏も出来ないよ? これまでだって外見しか見ないロクでなししか寄ってこないじゃない?」 その彼氏をさんざ奪ってきたくせに何を言うか。長美は心の般若面に偽りの御多福面を被せニッコリと微笑んだ。 「いーのいーの、この晩婚化の時代。そうそう焦る必要もないの」 樹璃は刹那そうな表情を浮かべながら天を仰いだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!