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「なあ、"兄弟の様に育つ"ってどういう意味意味なの?」
「……はあ、俺は兄弟いないからわからないですよ」
俺が屋敷の坊っちゃんに付きまとわれるのはいつものことだから、いつも通り面倒くさいとしながらも適当に聞き流すつもりだったんだが、今日のは何だか塩梅が違うようだった。
ただ塩梅は違っても、身寄りもなくて屋敷で住み込みで働かせてもらっている俺には、やらなければいけない仕事も現在進行形であるから、真面目に付き合ってはられない。
でも、この世間知らずのお坊っちゃんの相手も俺の仕事に入っているから、世話になっている立場から無碍にもできない。
ただ、そんなに真剣に付き合わなくても良いというお墨付きをもらっているのもあって、気楽に言葉を交わす分には俺も何気に楽しんでいるから、正直にいって気分は悪くはないし、愛想なしの俺とは違ってこの坊っちゃんは顔は良いので見ている分にはきっと眼福になると思う。
今は夜中の「厠についてきてこい!」とやってくる程幼い(使用人の俺の部屋に来れるのなら正直1人でいけると思うんだが)から、可愛いと表現するのが妥当で、疲れている時に名前を呼ばれながら駆けよってこられると、癒されることも事実だ。
だが、現状では任されている仕事に取り組んでいるので、そちらを優先しつつ、応えなければならないのが面倒くさい。
「……わいの話、おい真面目にきいちょるかや!?」
"自分の話をお前はきいているのか!"、直訳するとそんなことを告げられて、俺は内心舌を巻く。
真面目に聞いていないのを、ワガママではあるけれども、勘がよくて賢くていらっしゃるお坊っちゃんはあっさりと看破して、未だに耳慣れない御国言葉で批難なさった。
その声に少しだけ真剣なものが滲んでいたから、俺は頼まれていた仕事、竹箒で落ち葉を掃くという作業を止める。
よくよく見てみれば今日は珍しく使用人の服を掴んでこない、剣術を幼いながらも励んでいる可愛らしい手を拳骨にしていた。
その手は、俺と同年ではあるけれども、今は遠方の学校の寮に行っているという兄君と共に、俺の雇い主である父上であられる方と共に励んでいる剣術の為に、幼いながらも力強い。
たまに抱っこをせがまれたり、おんぶをしたりする際には、坊っちゃん自身の握力でぶら下がっているようなものだ。
俺は小さい拳骨の手を確りと握って、伸び悩んでいる身長を屈めて、坊っちゃんの目の高さにあわせて口を開く。
「そげん不真面目ってこつはなかですよ、坊っちゃん。でも俺も……"私"も仕事があるから、しないといけません」
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