【1】あくまでラブコメしたいだけ

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消えてしまいそうな私の小さな声に、彼の表情が一瞬で凍りついた。 そりゃあそうだ。だって彼は、自分の名前を公開していない。 アプリ内でも「Sさん」って名前だったし、事前に交換していた連絡先も同じ名前でしか表示されていない。 なのに、私は知っていた。 ザワザワと楽しそうな周囲の声、ポップコーンのキャラメルの香りが鼻をくすぐる。 驚きで固まってしまった私。そんな中、先に口を開いたのは彼だった。 「どうして、オレのこと……」 さっきまでの幼い笑顔はない。 少しだけ警戒するような彼の表情を見て、私は慌てたようにスマホを耳から離し 「あ、私っ、その、新木先生の職場の向かいの薬局で働いてて……っ!」 「薬局?あーあそこね。ごめんごめん、そういうことか。すごい偶然」 「すいません驚かせてしまって……私もまさか新木先生だなんて」 そう、彼は私の職場の向かいにある歯科医院でドクターをしている新木紫乃(あらきしの)先生。 何人かいるドクターの中でも、患者さんに対して人当たりも良く腕も良い、何より若くて笑顔が可愛いの……って、この前患者さんのおばあちゃんが言っていた。 ペコリと私が頭を下げれば、新木先生は可笑しそうにクスクスと小さく笑い 「写真あったじゃん。ほんとにオレだって気づかなかった?」 「……だって、横顔とラーメンの写真しか載せてなかったじゃないですか」  
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