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「かはっ、ぐふっ……」
「あ、ラズロが息を吹き返した!もう心臓マッサージしかないかと思ってたとこだよ!」
リンジィは大ぶりのハンマーを振りかざしていた。
振り下ろされなかったのは幸運だ。
「ねえねえ、どうだった!?すっごくリアルだったでしょ?」
リンジィの能天気な言葉に、ラズロはため息をついた。
「こんなリアルさを追求するな。幻で溺れちゃシャレにならん。砂漠で干からびる寸前で鉄砲水に襲われたんだ。いくら何でも極端だろう」
ラズロのテンションは地べたを這っている。
「それはね、ラズロの心が乾ききってるせいだよ!そんなところに雨が降ったら、地面に染み込む前に洪水になっちゃう!」
「程良い雨を見せられなきゃ商品にはならねぇだろう」
「おっかしいなあ、その人が望む雨を体験できるはずなんだけどなあ」
「不良品以外のナニモノでもねぇ。誰だよこんなモノ欲しがったのは。だいたい雨なんて知ってるやつがどれくらいいるか」
水の雨が確認されているのは地球しかないし、その雨ももはや人の命を繋いだり憩わせるシロモノではない。
放射能と大気汚染物質にまみれ劇薬になり果てた雨に、人類は触れることすらかなわない。
「仲良しのエルウィンがさ。最近体調を崩して引退しちゃったんだけどね。もう一度雨音を聴きたいって言ってたんだ。できるだけ願いをかなえてあげたいなーって作ったんだけど……」
「エルウィンって、人類環境会議のか?」
「うん、議長だった人だよ。何でラズロが知ってるの?環境に配慮なんて一切しない人が」
「ほっとけよ。俺の昔の恩師だ。それならば俺にも助言できることがある。先生が聴いたことのある雨音を俺も知っている。それはともかく先生に使ってもらうんなら改良しないとな。胸焼け通り越して胸が抉られそうな薬も、脳天杭打ちも言語道断だ。この耳飾り外れるんだろうな?」
ラズロの耳には赤いハートがゆらんゆらんと揺れている。
リンジィはただにっこりしただけだ。
「大丈夫だよ!ちゃんと腕時計型があるから!」
「……それなら何で俺であんなモノを試した?」
「ラズロの退屈な人生に刺激を与えたくて!」
「俺は静かで穏やかな暮らしを求めている。余計なことはするな」
「てへっ」
「聞いていないだろう?」
「うん」
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