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私に兄さん、正確には、血の半分も繋がっている兄さまがいるということを知ったのは、数えで8才を過ぎた頃の話でした。
丁度、父上の仲の良い御友人で私も昔からお付き合いがある方がお仕事の都合で引っ越しをなされた後、生活が落ち着いた頃にご招待を頂いて、家族でお邪魔したのです。
そこのお家は、年の離れたご2人兄弟で、私は弟君が産まれるまでは、それこそお兄様の方にお世話をしてもらって、烏滸がましくも弟の様に可愛がってもらったのをよく覚えています。
ただ、お兄様の方は引っ越しと同じ時期に寮のある学校の試験に見事に合格されて、新しいお屋敷にはお部屋はありますが、長い休暇にでもならない限りは戻られないと奥様が寂しそうに仰っていて、それを古くからの友人でもある母が慰めていたのが印象でした。
私といえば、誕生した頃からお兄さんに「むぜかぁ~」と、本来の兄弟ならではというべきなのでしょうか、赤ん坊の弟君が鼻水と涎を垂れ流していようが、頬擦りしていた程仲睦まじかったのが、進学の為とはいえ、離れてしまって、大丈夫なのだろうか?とご兄弟両方の心配をしていました。
いえ、はっきり言ってしまえば、お兄様の方は大丈夫だとしても弟君の方の心配していました。
『兄さあ、兄さあ、抱っこしてくいやい』
ちょっと年の離れた私でも可愛いと思える弟君が、お兄さんに、ヨチヨチあるいて追いかける姿には思わず相好を崩してしまっていたものです。
あんなにお兄様を好きだった弟君が、もしも離れて生活をすることになるのなら、1度聞いたら忘れられない猿の様な鳴き声、いえ、泣き声をあげるのを想像するのは私にも容易でした。
しかしながら、想像をしたところで、引っ越し先の新しいお屋敷で、御主人と奥さまには挨拶をしたけれども、弟くんを見かけないのに今さらになって気がつきます。
それはうちの両親も一緒のようで、母が代表するように尋ねたのなら、奥さまはニコニコとして上品に口許を抑えながら答えてくれます。
「あの子なら、新しい"兄さあ"を追いかけて、中庭にいっよ」
気安い友人関係の影響もあってか、母から聞きなれた御国言葉で奥さまはそう答えてくれました。
それから、御屋敷に入った際に案内をされてはいるので、私に探検をしてきたらどうだ、と提案されます。
両親もそれが良いというので、私はすこしだけドキドキとしながらも、頷きました。
実は既に屋敷の使用人達には通達済みで、どうやら私の屋敷探検は予定調和ということになります。
それでも私は随分とドキドキとしながら、最初に中庭と案内された場所に1人で向かいました。
「なあ、おいと結婚してたもんせ!」
「はいはい、坊っちゃん、俺は仕事がありますから、せめて背中から落ちないでくださいね」
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