2:トモダチやめる

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「散々だな。そんな血だらけなら、すれ違う人とかに心配されなかった?」 「それが…その日が十月三十一日だったんだよ」 どんよりとした曇ったような表情のままボソッと呟くと、芝崎は考え込むように「十月三十一日……ハロウィン」と、告げた後を最後に堪えていた笑いを少しだけ吐き出した。 「はは…っ…まじかよ。そんな奇跡ある?仮装と間違われたってこと?」 「その通りです。誰も心配してくれなかった…。なんなら、上手〜!って褒められたんだが。現役中学生に上手って何だよと思ったけど。まぁ…写真撮られなかっただけましか。多分泣きながらピースしてた」 「しかも写真の許可を出す前提の話?ポーズ決めてる場合か」 当時の事を思い出して、しょんぼりと肩を落とすと、芝崎は電車の中で大声を出さないように口元を隠すように笑っていた。その姿は向かえにいた人達も見惚れている様子が分かるくらい、ドキッと胸が鳴る笑顔だった。 芝崎のこんな楽しそうに笑う顔…初めて見たかも。うっ、絵になるくらい格好良くて心臓が痛い。 俺の話で芝崎はこんな笑顔を見せるのか。それにしても、芝崎と会話成立出来てるな。緊張はしてるけど、金田と話すときみたいに話せる…かも。クッソ〜…こんなんじゃ嫌いになれない。 色んな意味で物珍しそうに瞬きをして見つめていると、芝崎は何故かハッとした顔を浮かべて視線を此方へ向けたの分かり、すぐさま目線を窓の外へと移した。 「そ、それで、これから絆創膏持とうと思ったって話」 「でも今の倉木の話聞いたら、こんなの軽傷だな」 「とりあえず止血代わりに貼っててもいいと思うけど」 「じゃ、倉木が貼って」 そう言いながら芝崎は渡した絆創膏を返してきた。 「え、俺が…?」 「そんなに貼って欲しいなら倉木がやって。片手じゃ出来ないし。ほら、早くしないと倉木と別れる駅に着くけど」 芝崎は急かすように左腕を見せつけてきた。 気が付けば、あっという間に三駅目に到着していた。確かに片手だとぎこちなくなってしまうのは想像できる。 けどなんか…芝崎に絆創膏貼るって緊張するな。何度も言うが、貼った方がいいと提案してるわけであって、貼らなければ後から炎症を起こす可能性があるのは芝崎なのに、何で俺を急かすんだよ。しかも受け取ってしまった。 「…分かったよ」 俺は急いで絆創膏のシートを剥がし、粘着側のテープも剥がす。それだけなのに手が震えている事に気付いた。 「倉木」 上から聞こえた芝崎の声にギクッとするが、顔を見ずに向けてくれている左腕の傷にパッドを合わせる。 「なに?」 「そんな震えなくてもいいんじゃねーの」 「…気のせいだろ」 「緊張してんの?」 「…」 一々言わなくてもいいだろ、と思いながら無視して作業を続ける。傷に合わせて張り付けると、「痛っ」という声が降ってきて、咄嗟に「ごめん!」と顔を上げて言い返した。すると、想像していた顔とは違って、芝崎は企む子供のような悪い笑みを口角に浮かべていた。 「ウソだよ。吃驚した?」 「…」 なんなんだよ、この男は。本気で心配したのに。こんな子供みたいな事をしてくる美形に弄ばれるなんて贅沢だな。ウレシイナ。 芝崎を目を細めて軽く睨む俺の顔を見ると、更に口角を上げてきた。
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