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「おはよう、園宮さん」
登校途中に後ろから声を掛けられて、胸がとくんと小さく音を立てた。
「おはよう、佐久間くん」
追い付いてきた佐久間くんに挨拶を返した時、「っはよー涼! なぁ昨夜のバスケの試合見た!?」と後ろから興奮気味に走ってきた男子が彼の隣に並んだ。
男子と喋りながら離れていく佐久間くんの背中を見送る私の心は、温かいもので満たされていく。
高校一年からのクラスメイトの佐久間涼くんは、明るくて誰に対しても分け隔てなく朗らかに接する男子だ。背格好は同年代の平均くらいだと思うけれど、童顔のせいもあってか笑った顔がとても人懐こい。
背も低く、癖毛を誤魔化すための三つ編みに黒縁眼鏡。地味なことを自覚している私にも、通学路で、学校の廊下で、玄関で、見かけたら挨拶や他愛ない言葉を掛けてくれる彼のことが、私は一年の時からずっと好きだ。二年のクラス替えでまた一緒になれたことを喜んだのはつい一週間くらい前。
佐久間くんと言葉を交わせた日はそれだけで一日ほんわかと幸せで、頑張る力が湧いてくる。ふと思考が途切れた時、気が付けば彼のことばかり考えている。
(今日も一日頑張ろう)
思わず小さな笑みが零れる。少し速めた歩調で校門を潜った。
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