転生勇者は溺愛される

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俺は転生者だ。 しかし光の勇者としてもう幾年を過ごしたろう。 最初はぎこちなかったここでの生活にもすっかり馴染んだ。 仲間たちと共に日々研鑽を積み着々と、ときには困難に立ち向かいながら必死に戦い抜いてきた。 失った仲間たちもいる。それでも魔王討伐の任をやり遂げたことこそ俺の誇りだ。 そして平和は訪れた。 ついに俺たちはこの国を護りきったのだ。 しかし今、少しだけ困ったことになっている。 強引な国王が勇者に与えた褒美は。 地位と、名誉、広大な領土と財産。 そして美しく若すぎる花嫁だったのだ。 「うっうん…」 小さく咳払いをし、大理石でできたあまりに壮麗な寝台の前で状況の気まずさに内心たじろぐ。 「その、あー。すまない。相手が私では恐ろしいだろう」 ボソボソとした声に部屋が静まり返る。 なんて情けない姿だろう、今の俺は。 高貴な調度品に、高級な布地のカーテン。 既に自分の家だと言われても寝台にかけられた純白の天蓋ひとつすら魔王討伐を果たす前の自分になら手の届かぬ代物だったろう。 意味もなく助けを求めるように部屋に視線を巡らす。 そして肝心の花嫁からは返事がない。 「…その、こんなことになって本当にすまない。君には私は年上すぎているだろうし。かなり抵抗があるだろう。だから今夜は無理することはない。結婚自体だって嫌なら…すまない。断りきれずに君に嫌な思いをさせてしまった」  この期に及んで何言ってんだおっさん。 と言われても正直なところ謝ることしかできない。 30代もなかばの俺に対し与えられた貴族令嬢はまだ15歳。この世界ではよくある話だ。 でも俺はその点で言うと転生前の感覚を持っていた。ありえないだろう。15歳に手を出したら勇者の誇り以前になにか終わる。  実際花嫁をやると言われたときも、結婚式のときも、辞退は申し出た。 しかし結局しがらみに絡め取られ断りきれず初夜まできてしまった。 「あの、マリエッタ嬢…?」 静かな呼吸だけが聞こえている。泣きつかれて寝てしまったのかもしれない。 強引な側付たちに押し込まれるように入室してしまったがやはり今夜は。 「ここへ来るべきではなかったろうか…」 心の声のはずが小さく呟いてしまう。すると   「マリエッタ嬢はここにはいない」 天蓋のベールの向こうから男の声がした。 「なっ…!?」
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