第六章 反撃開始

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 大夢と夏海の事情聴取は別々に行われた。大夢は容疑を全面的に否認。ではなぜそこにいたのかと問われ、夏海との不倫関係だけは認めざるを得なかった。  夏海は踏み絵を踏まされることになった。つまり大夢との不倫関係を認めて大夢を守り家族を捨てるのか。それともあくまで強制性交の被害者と主張し、家庭を守り大夢を捨てるのか。結局、大夢との不倫関係を認めて家庭ではなく大夢を守る道を選んだ。  逮捕の翌日、大夢は釈放されたが、カバンの中の百万円の件は未解決だったので、在宅事件として捜査は継続。後日、大夢は窃盗の容疑で起訴された。  夏海は不倫を認めて一度は実家に逃げたが、大夢釈放後、実家の両親に付き添われて当然のようにわが家に戻ってきた。二人のLINEのやり取りを見ていたから、夏海がこっちに戻って来ることは分かっていた。  〈不倫がバレちゃった! 一人で実家に帰って来たけど、子どもたちに会いたいよ。どうすればいい?〉  《口の達者なおまえの両親も引き連れて堂々と帰ればいい。旦那は夏海にベタ惚れなんだろ? 頭を下げて泣き真似して反省してる振りしたら許してくれるさ。切り札として、体を見せたり、触らせてやったらどうだ? 結婚して十八年、まだ一度も旦那に見せたり触らせたことないんだろ? 旦那、感動して泣き出すかもな》  〈旦那に私の体、見せたり触らせたりしてもいいの?〉  《許さないなんて言ってる場合じゃない。なんなら、旦那の子を妊娠して産んでもいいぞ》  〈四十六歳じゃ妊娠は無理だよ〉  《四十歳で妊娠できたじゃないか》  〈旦那とまったくしてないときだったから、産むのあきらめたけどね〉  またさりげなく爆弾発言を投下してるし……  まあ、父の離婚への意志を固めてくれたと思えば、感謝すべき発言とも言えるかもしれない。  「中途半端にクズだと離婚か再構築か迷うところだが、ここまで突き抜けてると迷う手間が省けてかえってよかったじゃないか」  と僕と同じ意見を発言したのは、佐野守さん。父の兄、つまり僕らから見て伯父。父の勤める会社の取締役だと聞いている。取締役と言われても偉い人なんだろうな、ということくらいしか分からないが。  「兄さん、おれ悔しいよ……」  いつも〈僕〉と自称する父だが、守さんに対してだけは〈おれ〉と自称する。二人が顔を合わせるのは年に一度くらいだと聞くが、会う頻度と心の距離感はまた別の問題なのだろう。  守さんは父を心配して昨日からわが家に泊まり込んでいる。めったに自分を頼らない父からのSOS要請を受けて一ヶ月も休暇を取ったそうだ。自由にそんなに休めるなんて、取締役というのが閑職の一つなのは間違いない。  「USBの動画を見て気を失ったと聞いたときは何のことやらと思ったが、見ていておれも涙が出た。清二を侮辱した者たちには相応の報いを受けてもらうつもりだ」  架が守さんに意見した。  「それは伯父さんが佐野夏海と宮田大夢に報復するということですか。待って下さい。先におれたちにやらせて下さい。ただ慰謝料を請求するだけじゃ気がすまないんです」  「伯父さん? おれは君の伯父さんじゃない。確か次男の歩夢君だけは清二の血を引いてるんだったな。歩夢君になら伯父さんと呼ばれてもいい」  「兄さん!」  たまらず父が割って入った。  「架と夢叶はどうやら僕の血を引いてないようだ。でも歩夢だけでなく架も夢叶も僕が夏海と別れたら僕の方についてくると言ってくれた。血が繋がっていてもいなくても、僕は彼らのためなら死も厭わない。架も夢叶も血の繋がった両親を相手に僕とともに全力で戦うと言ってくれている」  「血の繋がった両親を捨てて、血の繋がってない清二を選ぶ? そんなの財産目当てだろう?」  「兄さん、僕はそういう話を今まで一度も家族にしたことないんですよ」  「一度も? 夏海さんとも?」  「うん」  「馬鹿だな。話しておけば絶対に裏切られたりしなかったのに。いや、誰が本当の味方か見極めるには悪くない方法かもしれない。ただ、今回の件に関しては、いかんせん清二の受けたダメージが大きすぎるな」  「その通りですね……」  父が自嘲気味に笑って見せた。浮気された側が受けるフラッシュバックからだいぶ立ち直りつつあることは間違いないようだ。  僕ら三兄弟で大夢と夏海に復讐したい、という僕らの希望を守さんは尊重してくれた。  「ただし弁護士の手配など子どもにはできないことはこっちでやる。それから君たちのお手並みをじっくり拝見させてもらうが、しくじった場合はバトンタッチさせてもらうからね」  「それでいいです」  架はさっそく、夏海&義実家襲撃に対してどう対応すべきかを全員に説明した。
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