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【 >ENDING:…… 】  悲喜劇のメーターバランス  Meter balance of a tragicomedy.  悲喜劇のバランスを計りなさい。  いつもこうなる。 「……っあっ……!」  いつも、こうなる。覗き込んだ彼女の顔は、血の気が失せていた。僕の涙が彼女に掛かると、彼女の瞼が弱々しく開く。 「……ぁぁ……」  ようやっと持ち上がった、と言う風に、彼女の手が僕の頬に触れた。 「……だ、い……じょ……ぶ……」 “大丈夫”。彼女が微かに笑んだ。そんなはずは無いのに。そんなはず。  いつもこうだ。 『世界』を救おうとすると、こうやって、彼女が死ぬんだ。 【 >NEW GAME 】  僕の日常が壊れたのは、“世界の終わり”が来たからだった。 「何だよ、アレ……」  始まりは世界が“崩れた”こと。高校一年の三学期、この日は終業式だった。僕は友人といつものように屋上にいて、バスも無くなるしもう帰ろうかと仕度をし出して、友人の呟きに目線をやれば────橋の向こうが、黒く染みみたいなものに覆われて行くのが見えた。  僕たちの高校は大きな人工の浮島に建っていた。浮島には全部で三島、橋で本島含めすべて繋がっていて、幾つかの学校や医療施設、商業施設その他工業地帯や研究施設などが在り、勿論居住区も在った。けど、橋を跨いだ首都圏から通う人間も多くいた。……僕や友人のように。  異常事態は、すぐに島の内部にいる全員へ伝わった。緊急時の通信も途絶え、黒い染みの向こうはまるでブラックホールに似ていて、浮島に在るどこかの研究施設が調査したところ、何も無かったらしい。と言うか。  調査員も探索機も、帰って来なかった。黒い染みに隔離されて二日目、島の市長の発表だった。  何が起こったのかわからないまま、僕たちは閉じ込められて三日を過ごした。島だけで自給自足出来る環境に在ったことが、幸いしたのだろう。取り敢えず一時混乱したものの、大事にはならなかった。  緊急避難として、学校に身を寄せていた僕たちは、さすがに三日ともなると疲れが出て来ていた。 「不自由無いったって、冗談じゃないよなぁ」  教室で、他のクラスメートと携帯ゲーム機で対戦しつつ、友人は笑っていたけれど、明らかに疲れていた。僕も、突然の集団生活に戸惑っていたしストレスも在った。僕は 「ちょっと屋上に行って来る」 断りを入れて教室を後にした。  この日屋上で。 「あ……」  彼女に出会った。  彼女は特進クラスの人だった。進学校を謳う僕の高校は元より学力重視だけど、更に力を入れていたのが特進クラスだ。彼女は常に上位にいる人で、美人で、だけど派手な訳でも無く、どちらかと言うと隠れファンがいるみたいな……そう言うタイプだった。 「大丈夫?」 「え?」 「疲れてるようだから」  僕が彼女に何か言う前に、彼女が訊いて来た。僕は何と返して良いのか答えあぐねていた。彼女とは、そのときが初対面だった。  名前は知ってる、だけど僕は特進クラスと関わりが無いので、接点は無かった。なので、僕たちは最初、とてもぎこちなかった。 「困ったね」  在り来たりな、無難な話題を振った。本島と連絡が絶たれて三日弱。彼女も家族は本島にいた。 「そうだね……家族が心配だな」  小さく零す彼女は、儚げに見えた。  そして、僕が何某か声を掛けようとした次の瞬間。 「何……」  独り言ちる彼女の視線を追って僕は驚愕し、思わず立ち上がった。彼女もつられたみたいにゆっくり立った。  見る見る内に、黒い染みと別に、半透明の膜のようなものが浮島を覆ったのだ。呆然と見上げる中、僕と彼女の端末が鳴り響いた。  メールの受信だった。同時に鳴ったことで顔を見合わせた僕たち。彼女の不安げな瞳に映る僕もまた、怪訝な顔をしていた。二人で示し合わせた訳でも無いのに画面を見る。  メールは、一言で評するなら意味不明だった。 “さぁ、皆さん” “お時間です” “あなたの本性を解き放ってください” “それはあなたの武器であり、盾です” “尚、コレはトーナメント制” “優勝者には、素敵な賞与特典(ボーナススキル)が与えられます”  メッセージの下にはURLが在った。 「何、コレ」  当然、僕たちは訝しんでいた。訳がわからなかった。 「悪戯メール、かな?」 「こんなときに……」  彼女の問いに、タイミングが悪い、と僕の言葉が続くことは無かった。  校舎で一斉に上がった悲鳴が、屋上まで届いた。次いで、地震かと感じる程の振動。 「きゃっ」  よろめく彼女を受け止めて、止まるのを待った。しかし待てども、揺れは収まらず叫び声も変わらず、怒号さえ混じっているみたいだった。  僕たちはどちらともなく校舎の中へ戻った。  階段を駆け下り、廊下を見た僕たちは愕然とした。 「痛いよぅ……」 「何だよ、コレ、っ、うわぁあああっ」  阿鼻叫喚と呼んで差し支えない、まさに地獄絵図が繰り広げられていた。一目でわかる大怪我をして瀕死な者、慌てふためき逃げ惑う者、喚き散らし『何か』を威嚇する者────“何か”? “何か”。  それは『何』なのか。ぱっと見判別出来なかった。ただ、おぞましく、とても強大で、獰猛な。  人では無い“モノ”。  僕はとっさに彼女と階段に設置されている防火扉の影に隠れた。友人が心配で、携帯を見た。  携帯は、メール画面のままだった。 “さぁ、皆さん” “お時間です” “あなたの本性を解き放ってください” “それはあなたの武器であり、盾です” “尚、コレはトーナメント制” “優勝者には、素敵な賞与特典(ボーナススキル)が与えられます”  メッセージの下にはURL。下には続きが在った。 “注。上記はチュートリアルとなります” “上記にアクセス後、正規版をダウンロードする場合は選択してください” “生きるか” “死ぬか” “選択によりチュートリアルを開始、チュートリアル終了後正規版をダウンロード、これによりトーナメントへの登録が完了致します” 【 >NOW LOADING... 】
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