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あれからすぐに、周平は函館支店に異動が決まった。
香鈴は松内町の家に越してきた周平と二人、平穏な日々を過ごしていた。
香鈴が引き継いだ不動産会社も、業績は好調だった。
買い手もつかず、放置していた土地は、町の発展とともに値を上げ、今では高値で売買されている。
また、人口増加にともない、空いた土地に建てたマンションもすぐに満室になった。
何もかもが順風満帆だった。
それは周平にも同じことがいえた。
函館支店に勤務してから一年足らずで、元いた支店長が異動となり、その後釜に抜擢されたのが周平だった。
だからといって、香鈴が行った禁術は、自分達が裕福になるためにしたものではない。
ただ一人を守りたいがために、やむを得ずその手を染めたのだ。
香鈴が周平に伝えたのは、庭に椿の木を植えただけで、禁術については黙っていた。
木霊に負けるわけにはいかない。
あの日、そう誓った香鈴だったが、結果として木霊に屈してしまった。
だが、それもすべて自分の代で終わらせるつもりだった。
開花時期を過ぎると、庭の椿の花が落ち始めた。
一つ、また一つと落ちていく。
数日後。
商談で家を空けていた香鈴は、夜になって帰宅した。
車庫には周平の車があった。
その隣に車を停めて家に向かう途中、ふと庭に目を向けた香鈴は、そこから目が離せなかった。
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